先日まで、地元・函館に帰省していました。

いちばんの目的は、みずのさんの「書けるようになるnote勉強会」に参加すること。

以前、Voicyに登場していただいたときに「いつか函館でも勉強会をやってください!と」軽いノリで言ってみたところ、それが見事に実現した形になります。

現地で実際にこの実現に向けて動いてくださったライターの阿部光平さん、シエスタハコダテの岡本啓吾さんには、本当に感謝しています。おふたりのおかげで、とても素晴らしい勉強会が函館で開催されていました。

近々、みずのさんには函館の魅力についてVoicyでインタビューさせてもらう予定もあるので、そちらもぜひ、合わせて楽しみにしていてもらえると嬉しいです。

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さて、今回の帰省で改めて思ったことは、観光地・函館の大復活。

一昨年あたりから、その片鱗はあったけれど、完全にある種のバブルフェーズに入った感じがしています。

株式投資などのチャート分析に喩えると、上値抵抗線を完全に突き抜けてブレイクアウトしたイメージ。

実際、函館行きの飛行機は行きも帰りも満席で、ホテルも駅前のめぼしいホテルだと近い日程は予約さえできない状況です。

函館駅前にあるアパホテルのようなコンパクトなホテルでも、1週間後まで空室がなく、さらに週末は2万円超えの価格です。

当然、ホテルの数も全然足りていなくて、僕が噂で聞く限りだと、有名な外資系ホテルチェーンも含めて、これから函館駅周辺には新しい大型ホテルが4棟も建つらしいです。

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さらに、函館は港町であるため、豪華客船が横付けすることも可能。

そうすると、大型ホテルが1棟分、定期的に街に増えることになる。

実際、僕が滞在していた間も豪華客船が到着していたタイミングで、赤レンガ倉庫群のあるベイエリアは外国人だらけ。ここは一体どこの国なのかと疑うほど。

もちろん、みなさんご存知の通り、昨年の劇場版『名探偵コナン』の影響で、日本人もたくさん訪れています。

イメージは日本人と海外の方が本当に半々か、ちょっと海外の方が多いイメージ。

これもまたすごいことだなあと思います。なかなかそんな比率の観光地はないと思います。

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で、おもしろいなと思ったのは、そんな中での「ラッキーピエロ」の存在観なんです。

ちなみに、ラッキーピエロとは函館にしかないご当地ハンバーガーレストランです。


一番人気の「チャイニーズチキンバーガー」が有名で、カレーやオムライスまで揃う個性派なお店。しかも、魅力は味だけではなく、お店の中にブランコがあったり、年中クリスマスムードのお店があったりと、お店毎にテーマが異なっていて、その空間自体が一大エンターテインメントになっている。

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地元のひとたちに話を聞いてみると、もはや地元のひとたちはいけないらしいです。その理由は、混みすぎていて。

実際、食事時の時間を外して、店内を覗いてみてもレジ前には長蛇の列ができていました。

ラッキーピエロは函館全域のチェーン店なので、観光地以外のエリアにも店舗は複数あるのだけれど、そこまで観光客の人々が、わざわざレンタカーを借りて訪れているらしい。

また、今回も夜の比較的遅い時間帯に友人と訪れてみると、店内の席は満席状態でした。

僕が大学生ぐらいのころまでは、本当にガラガラでした。

当時から観光先としては有名で、観光客も訪れていたけれど、店内のスペースにはほとんど誰もおらず、必ず座れたし、それゆえに中高生のたまり場みたいにもなっていました。

でも、今はもうそうじゃない。並ばないと購入できない超人気店です。

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では、ラッキーピエロの何がそんなにも観光客を惹きつけるのか。

今日のメインのテーマもここにあります。

僕が思うのは、あの空間の俗っぽさなんだと思いました。

というかもはや、「ピエロ」という名前そのものが、象徴している。

観光には「聖と俗」が必要であるというのは、よく語られる話です。

江戸時代に盛んになった、一般庶民が旅をするようになった起源であると言われる「お伊勢参り」も、伊勢神宮という聖なる場所に行くことが目的でありつつ、それにプラスして、周辺には羽目を外すことができる俗っぽい遊郭があったのだと。

最近の「ブラタモリ」でも、神奈川県にある阿夫利神社を参拝する大山詣りが特集されていましたが、こちらもやはり参拝前日に宿場町に宿泊して、どんちゃん騒ぎがあったという。

つまり、観光には聖だけでもダメだし、俗だけでもダメで、その両方が必要だということだと思います。

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函館は、神社仏閣・教会・異国情緒溢れる観光地がたくさんある。

そして、極めつけは函館山からの夜景。観光に必要な聖の要素が街の中にいくつも存在する。

でも、それだけではダメで、聖には必ず対局の「俗」が必要。

そして、函館観光の場合においては、ラッキーピエロがその「俗」の部分を担っているんだろうなあと思いました。

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現代は、この旅先で俗っぽさを味わえる空間が本当に少ないと思うのです。

僕は、日本全国を旅や取材することも多く、清らかな聖なる空間、あとは大自然のような心癒される空間があるエリアは非常に多い。

でも、現代における俗っぽさが、全然ないんですよね。

昔は、温泉街や歓楽街があったエリアも、今は完全に寂れている。しかも、もうそういう時代じゃない。

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この点、ラッキーピエロは、現代的な倫理観においても、目を細められてしまうような歓楽街でもなく、本当にものすごくちょうどいい塩梅だと思うんですよね。

家族で安心して味わえる、俗っぽさ。

そしてそれゆえに当然、役場やマスメディアなんかも支援しやすい。

函館に観光に行って、ラッキーピエロに行かなかったという話を本当に聞いたことがありません。

老若男女、どんな思想的、文化的背景を持っているひとでも、そして一人旅から家族旅行、団体旅行にいたるまで、本当に函館に訪れたひと全員が行っている印象です。

もちろん、コナンの映画の中でも、具体的なお店として作中に登場している。

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しかも、それが外来のものであること、中国人経営者であるということ。それも函館のアイデンティティとしてちょうどいいんだろうなと思うのです。

「あれは外国人の経営しているお店だから」ではなく、そもそも港町・函館という街は、そうやって異国の文化と混じり合いながら発展してきたカオスな場所として認知されていて、海外の人が経営者であっても、許される観光地になっている。

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で、今日の話を考えながら、いま僕が真面目に思うのは、全国各地のこれから観光を盛り上げたいと思うエリアは、函館のラッキーピエロの俗っぽさをもっと参考にするといいんだろうなと思います。

今は2010年代から続いている「暮らすように旅する」というキャッチコピーが当たり前になり、どこの観光地にへ行っても、ハレとケにおける、ケの延長のお店っていうのは、かなり増えました。

具体的には、観光客向けのいわゆるなガチャガチャしたお店ではなく、もっと洗練された、東京にあっても違和感がないようなカフェや雑貨屋さん、本屋さん、など。

それはとっても素敵だし、実際に体験すると素晴らしいなとも思うのだけれど、もはやちょっと退屈なんですよね。

言葉を選ばず言えば、正直だいぶ飽きてきた。「あー、はいはい、やりたいのはそういう感じね」ということで、どこに行っても「丁寧な暮らし」の延長にあるような、現地の古い建物をDIYでリノベしたようなお店が並んでいる。

つまり、もう完全にそれがコスプレみたいになってしまっているんですよね。このあたりの「横の系譜」の同期が早いのも、SNSやAI時代の特徴だなと思います。

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函館においても、たとえば、10年前に観光客がわざわざレンタカーを借りてでも訪れていた蔦屋書店も、今はほとんど地元のひとたちだけ。

ガラガラとまではいかないけれど、あきらかに観光客のひとたちに飽きられていることがとてもよく伝わってくる。

それもそのはずで、10年前は物珍しかった蔦屋書店も、今ではどこにでも存在するし、似たような文脈の図書館なども全国に増えて、もう目新しさはまったくない。

そんな中での、ラッキーピエロの俗っぽさ、その刺激は現代にちょうどいいんだと思います。

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そして、ラッピはずっと昔からあるし、昔からほとんど変わっていない。僕が生まれた頃には、既にありました。40年近く地元のひとも通っているソウルフードになっている。

店内のピエロ感溢れるカオスな内装の雰囲気や、出されるメニュー、その味自体も、ほとんど当時から変わっていない。

つまり、そこにちゃんと歴史もある。平成レトロみたいな文脈にも、ピッタリとハマるわけです。

また、健康志向が高まる現代においては「旅先で羽目を外す」という意味合いにおいてのジャンクな感じが余計に「俗っぽさ」を高めてくれるわけです。健康志向が高まる中で、相対的にジャンクになった。

このラッピの絶妙な塩梅が、函館の観光地としての大復活、その成功要因のひとつだと思います。

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そもそも、「旅の恥はかき捨て」というように、人はどっか旅先で恥をかきすてしたい、蕩尽したいと願う。しかもそれは精神的な蕩尽なんかも含まれる。

でも今は、人間のそのアンビバレントな感情や、俗っぽさを求める気持ちを軽視しすぎていると思う。

台湾だって、もし夜市がなければ、ここまで日本人に人気になっていないと思います。

観光を生業にするひとたちは、現代における俗っぽさの提案について、もっともっと真剣に考えて大切にしたほうがいい。

しかもそれが、特定のカテゴリーにだけ刺さるものではなく、ハンバーガーショップのように広いターゲットにおいて届きやすいもの。

言い換えると、ピエロもハンバーガーも俗の定番としてグローバルだけれども、でもラッキーピエロは、ものすごくド・ローカルを貫いている。

それが本当にすごい。もちろん狙ったわけではなく、結果的にそうなった。そこにピタッとハマったということだと思います。

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「暮らすように旅する」文脈も一周し、そろそろ飽きも出てきて、時代的にも観光が新たなフェーズに入ったからこそ、いま再び何周かして注目したい流れだなと思いました。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。