先日、為末さんがVoicyで配信されていた「為末大学のQ&Aコーナー」で、非常に興味深い話が語られてありました。
それがどんな話だったのかと言えば、「陸上競技関連マーケットの拡大には何が必要だと思いますか。大会をテーマパーク化したほうがいいのでは?」という質問に対して、為末さんは「陸上は、野球のような観戦型ビジネスとして成立させることはむずかしい」という回答でした。
今日はこの一連の話を聴いて、僕が個人的に考えたことを少しこのブログに書いてみようかなと思います。
オンラインコミュニティに興味を持たれている方や、ウェブ上でコンテンツ制作を行っている方には特に参考になる話だと思います。
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この点、為末さんが語っていて非常にわかりやすいなと思ったのは「陸上競技」と「野球やサッカー」といったチームスポーツの違いです。
野球やサッカーは、観客がチームに対して強い愛着や感情を持っていて、例えば、読売ジャイアンツや広島カープのファンは、そのチームへの深い思い入れがあり、チームの勝ち負けに一喜一憂するわけです。
一方で、陸上競技は個人競技が中心であり、観客がチームや選手に特定の愛着を持ちにくいという特徴があり、チームへの愛着が湧くのは駅伝ぐらい。
駅伝を除けば、個人競技であるがゆえに、観客が特定のチームや選手に強く感情移入しにくいらしいのです。
また、野球やサッカーなどの場合には、直接的な対戦形式があり、勝ち負けという結果も明確にもなりやすい。対して陸上は、基本的には対戦型ではなく、自分自身の記録や限界に挑むという側面が強くなる。
もちろん順位や記録の良し悪しもありますが、直接的な「対決」という構造が薄く、そのため観戦の魅力がわかりづらくなりがちだと、為末さんは語ります。
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ただし、そんな陸上競技ではあるけれど、この数十年で「競技人口」のほうは一気に増えたというのです。
その、背景には「東京マラソン」の大成功があって、東京マラソンは単に観るだけでなく、誰もが「参加する」ことを楽しめるイベントとして成立し、数多くの人々が実際にランナーとして参加するようになりましたよね。
これによって陸上は、自らがプレイヤーとなって「するスポーツ」として、その競技人口が劇的に増えているのが特徴だと。
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つまり、陸上競技は、野球などのプロスポーツのビジネス構造と違って、「するスポーツ」としての王様の立場があるにも関わらず、なぜか陸上競技を語るときに、野球のようになろうと語るひとが多い。
それはことごとく失敗するというのが、為末さんの見立てだそうです。
逆に言うと、東京マラソンのようなものをつくろうとする野球やサッカーのビジネスも、同様に失敗する。
そういう意味で「陸上競技は究極の『参加するスポーツ』だと思っていて、これを徹底的に追求するべきだと思っています」と締めくくられていて、これを聴いたとき、僕は強く膝を打ちました。
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で、これを僕が日々眺めている分野に引き付けて、インターネット上におけるコミュニティ運営やコンテンツ制作分野においても、まったく同じようなことが言えるなと思ったんですよね。
でも、今はここが一緒くたになって議論されてしまっている。
それゆえにいらぬ争いも巻き起こしてしまっているなあと思います。
そうじゃなくて、「する競技」としての王様になれること、その道を探っていくことが大事なんだろうなあと思ったんですよね。
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この点、たとえば、YouTubeなんかはわかりやすくて、こちらは完全に野球型のビジネスモデルの代表だと思います。
YouTubeでは、どれだけその観客の数を増やして、ビジネスに紐づけるかが勝負です。
で、コレまでは広告収入や観戦席の売上、つまりメンバーシップやスパチャなどで生き残ってこれたけれど、でも今のように各チャンネルの過当競争が始まると、グッズ販売など、直販ビジネスをつくらないと成り立たなくなってきている。
このあたりも、明確に野球型ビジネスの特徴だなあと思います。
チームをつくって、そのチーム全体を推してもらう、なおかつ、そのチームや配信者ごとに、チャンネル登録数や再生数、売上など、対戦型に持ち込みがち。
もちろん、その延長線上にある、ファンクラブや有料メルマガ形式のオンラインサロンも野球型です。
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一方で、ブログやオンライン上の対話会を行うようなコミュニティ、それに付随する音声配信なんかは、明確に陸上型だなと思います。
観客が一気に増えることはなかなかないかもしれない。地味だし、目立たないからそれは仕方がないことです。
でも、陸上競技と同様、自らがブログを書いてみたり、対話会に参加してみたりして、音声配信なんかを始めたりするようになったひと、その参加人口数はこの十数年の間に一気に増えました。
そして、自らがプレイヤーとなることの楽しさ、しかもそれは他者に見せて稼ぐためではなく、自らと向き合ったり自己の問いを深めるために行うような形。
そうすると、自然と自己の暮らしや仕事が豊かになると気付いたひとはかなり多い。
このあたりも、ランニングなどの特性と非常によく似ているなと思います。
そして、Wasei Salonのようなオンラインコミュニティも、この陸上型を目指したいと考えています。
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逆にそこで、観客ビジネスが成り立つぐらいまで、徹底的に勝負しようとしてしまうと、プロの作家や哲学者、批評家たちと勝負をしなければいけなくなるから、かなり辛いものがあるし、それは多くのひとにとって、目指すべき対象でもないと思います。
東京オリンピックに出ている一般の方々も、オリンピックで優勝したくて走り始めるなんて、最初からしていないはずですから。
だとしたら、その初心者を歓迎するためにも、最初から一流の競技者たちが集まる場所にしないことが大事なんだと思うんですよね。
それよりも、一般市民から参加できるような「東京マラソン」型のほうが適しているんだろうなあと。
なんなら、そんな大型の大会よりも、もっともっと小さな集まりを頻発することかもしれない。
「一緒に仕事終わりに集まって、ちょっと走ってみませんか?初心者大歓迎です!」というようなコミュニティをつくり出すことがきっと大事であるはずで。
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子供の頃は書くことに興味があったけれど、仕事に追われて、もう10年以上が経過する、みたいなひとが多いのも、ネット上のブログや対話会の特徴だなと思います。
もともと哲学的なことを考えたり、抽象的な答えのない問いを考えることが好きだったのに、気づけば自分の問いをいつのまにか見失っていた、というような方にこそ、僕はWasei Salonに参加してみて欲しいと思う。
「そんなひとたちに対して(もう一度)一緒に走ってみませんか?」と提案するようなことを、Wasei Salonでやりたいんだろうなと思います。
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もちろん、野球場のようにプロの素晴らしいチームプレーを観客席で眺めながら、ビールを飲んで大いに楽しむ、それもエンタメとしては大変素晴らしいと思います。
でも、僕がつくりたいのは、そのような観客型のエンタメではない。
そうじゃなくて、もっともっと自分自身が直接参加したくなる「余白」を構築していきたい。
そして、少しずつ実際に参加してみて、そのプレイヤーとして参加した後の爽やかさや、心地よい疲労感を肌で感じてくれる状態を生み出したい。
その価値観の広がりや健やかな人が増えることによって、結果的にプロに対するリスペクト自体も高まっていくはずですから。いつも語るように旦那芸的に実践するひとが増えれば増えるほど、そのジャンルの文化は成熟していくことは間違いないはずです。
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ランニングやウォーキングのような生涯スポーツのように、生涯知的運動のようなものを、どのように生み出して、共に問い続けることがができるのか。
そのための空間をつくっていきたい。
そのような場にあつまるひとたちひとりひとりが主役であって、健康的で健やかな、それぞれの「物語」を歩めるような場をつくり出していきたいなと思います。
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今日ご紹介してきた「陸上型」の流れは、今後もインターネット上で広がっていく可能性は高いと思っています。
というか、インターネットの本質は、野球型よりもこの陸上型にあるとさえ言っても決して過言ではないはず。
そして、くれぐれもその時には、テーマパーク化させないこと。
コミュニティ内に「問い続ける」余白を設けて、そこで参加した各人がゆっくりと自分のペースで参加をできるように。
その持続可能性と居心地の良さが、真の意味で「健やかなオンラインコミュニティ」を育むことにつながっていくと思います。
今日の話は、元ネタの為末さんの話を聴いたほうがより理解しやすいかと思うので、ぜひ為末さんの配信も直接聴いてみてください。
いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。

2025/03/14 20:36