「これからの”働く”を考える」をテーマに活動するWasei Salonではじまったインタビュー企画「わたしの一歩」。
今回のお相手は、IT企業でカスタマーサクセスの仕事をしながらコーチングやNPO法人のプロボノ、そして、Wasei Salon内では「円窓の庭」という対話型の連続イベント企画など、マルチに活動されているメンバーのほしまどさんです。
そんな彼女に、対話型イベントを企画することで気づいたことを伺いました。
星加 円(ほしまど)
横浜で生まれ育ち、東京の青梅に在住。音響に関わるソフト開発や技術コンサルの仕事を経て、現在はIT企業でカスタマーサクセスとしてSaaSの導入支援を担当。複業でコーチングやNPO法人でのプロボノ活動を行う。
「人の持ち味が生かされていないのがいや」という軸にある感情
ひとつは会社の仕事ですね。その会社ではカスタマーサクセスを担当していて、SaaSの導入支援をしています。
その他には、昨年から始めたコーチングや日本に暮らす難民への伴走型のキャリア支援をしているNPO法人 WELgee でのプロボノ活動、Wasei Salonでは「円窓の庭」という対話の場づくりもしていますね。
ーー会社の仕事以外に複数の活動をしていて、お忙しくありませんか?
わりと楽しくやっています。自分の中ではそれぞれの活動には重なる部分が大きくあるので、別々の活動をしている感覚ではないからかもしれません。
ーーその重なる部分というのは?
少し綺麗事に聞こえるかもしれませんが、「人の可能性を引き出したい」といった思いです。人がもともと持っているクリエイティビティが発揮されている状態をつくりたいんです。
ーー人の可能性を引き出したい。その思いはいつから大切に?
前の職場で「人の持ち味が生かされていないのがいやだ」と感じたことがきっかけですね。
若手社員の持ち味が生かされていなかったり、段々とやる気がなくなっていったり、その姿を見ていて「会社にいる一人ひとりが悪いわけではないのに、楽しくなさそうな若手の子がいる。なんでだろう......」って、とても悶々としていたんです。
その経験を通じて「あぁ、わたしは人の可能性が発揮されていない状況がいやなんだ」と気づきました。その経験があったので、誰かの可能性を引き出す触媒のような存在になりたい、との思いでコーチングを学び始めました。
日々感じている違和感を本音で話せる安心感があった
「円窓の庭」は参加者のみなさんと、日々感じている違和感や、なかなか考えるタイミングがないことを対話する哲学カフェのような場です。これまでは「自由って本当に幸せ?」「人はなぜ結婚するのだろう」といったテーマで開催しました。
ーー「円窓の庭」を始めた背景にも、人の可能性を引き出したいという思いが?
「円窓の庭」は「人の可能性を引き出したい!」という思いがあったわけではなく、流れのなかで始まりましたね。
運営者の鳥井さんと違和感について話し合ったことがあり、その時にふと「日頃感じている違和感を話せる」ことはなかなかできることじゃないと感じたんです。
ーーそれはどうしてですか?
友達や同僚に対して違和感を話すときだと、「楽しい雰囲気を壊してしまう」「少し、嫌われるかもしれない」と考えやすいからかもしれません。
いつも見せている部分は出せるけど、見せてない部分は見せづらいですよね。
ーーたしかに。失いたくないからこそ、言えなかったりしますね。
そうですよね。でも、Wasei Salonではその感覚がなかったんですよね。
相手へのリスペクトをもって聞く方ばかりで「本音で話してもいいんだ」という安心感がありました。
円窓の庭を初めて開催した時、普段は言えないことを参加者の方々が話してくださった感覚もあって嬉しかったですね。ただ、みなさんスッキリはせずに、さらにモヤモヤしていましたけど(笑)
ーーよりモヤモヤしたんですね(笑)普段言えないことを話せるとスッキリしそうな印象があります。
これまで話せなかったことを話したからこそ、みなさんの思考が進むのかもしれませんね。
「円窓の庭」を続けて気づいた
私自身、すごく学びになっているからですかね。
ーーどんな学びでしょう?
例えば、「円窓の庭」を始めてみたことで対話の場には、お互いを引き出しあう力が働くことを知りました。
他の人が話しているエピソードを聞いていると自然と「私はこう考えるなー」や「こんなこと思い出した」と思考が進んだり、新しい疑問が浮かんだりします。
そうして対話の中で、思い出す、捉え直す、わからなくなるなど色々なことが同時に起きる。お互いを引き出すことを目的としていなくても、対話をしていれば繋がっていく。そんな面白さがあります。
ーーそんな対話の場を続けることで、感じた変化はありますか?
「私はこういうことをやりたいんだ」と知れたことが大きな変化だと思います。
対話が好きなことはもとから認識していました。でも「わたしが自分で場をつくりたいんだ」という気持ちがあったことは知らなかったんです。
ーー続けたからこそ気づけることって宝物ですよね。ほしまどさんは、自分で場をつくることのどこに惹かれたのですか?
「円窓の庭」では、参加してくれた方の肩書や住んでいる場所などは知らずに、話し合いを深めていきます。
その時間のなかで、時々その人が大切にしていることに触れられるんです。表面的な属性情報は知らなくても、その方がより人と出会った感覚になります。
私はその感覚が大好きで、対話の場づくりにおいて一番惹かれていることです。
ーー属性情報から入らない方が出会った感じがする......納得感がすごいです。
違和感を安心して話せる場も、属性情報から入らない場もどこにでもある訳ではないですよね。そのことに問題意識があるので、そういう場をつくっていきたいのだと思います。
わたしの一歩を踏み出すときに触れたいもの
これまでの一歩を振り返ると「本屋」かもしれません。以前住んでいた家の近くにある「古書 コンコ堂 」は居心地がよく、吸い寄せられるように訪れていました。
この場所で気負わずに出会えた本が、わたしの世界を広げてくれる感覚があります。実際にプロボノの活動を始めたのはコンコ堂で出会った本がきっかけなんですよね。
ーー本が世界を広げてくれる感覚、素敵ですね。
本も対話のひとつの形だと思うんです。亡くなった著者も生きている著者もいて、著者の思考に触れることで勇気づけられたり、困った時に救われたり。もともと本を買う量は他の人よりも多いと思いますが、困っている時はさらに本が増えていきますね。
ーーちなみに、ほしまどさんから見て「この本、Wasei Salonっぽいな」と感じる本はありますか?
読書会で選書されていた『モモ』や『ゆっくり、いそげ』は、Wasei Salonっぽさを感じました。Wasei Salonって理想ばかり語る場所でもなくて、みなさんの日常や現実がある中で感じたことをシェアしている方が多いですよね。
ーー今日お話を聞いて、「円窓の庭」で話すこともそのような印象があります。次回開催するときはぜひ参加させてください。
はい、いつでもお待ちしています。
編集後記
「続けたからこそ、やりたいことに気づけた」
私たちは何かを始めるとき、ネットで情報を調べたり、当事者の話を聞いたり、事前に準備をすることで「やってみたら、どんなことが起きるだろう」と想像することができます。
ただ、その想像で起きることと実際に生じた気づきの間には、とてつもなく大きな壁があるのではないでしょうか。ほしまどさんは対話の場づくりを始めたことで、「対話に関心があることは知っていたけど、場づくりを自分でしたいとは知らなかった」と仰っていました。
情報が溢れている社会ですが、これからの働き方を考えるときに私は自分の足で確かめたものを頼りにしていきたいと感じさせてくれるお話でした。
この記事が、自分のやりたいことを探されている方に届きますように。
執筆:張本 舜奎
写真:長田 涼
撮影場所:古書 コンコ堂