「私は、すべての男に復讐しなければならないの。」

渋谷のDi Puntoで、きまって悪酔いするワインを傾けながら、彼女はいつになく真剣な表情で語った。
そのとき抱いた戦慄にも似た感情を、私は忘れない。


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彼女と出会ったのは、就活期の昨秋。とあるベンチャー企業のインターンの選考会だった。

その頃わたしはホームレス生活が3ヶ月目に突入し、真っ黒なTシャツ、真っ黒なジーンズ、真っ黒なジャケットにピアスまでして、至極ナメた態度で参加していた。受かったら10万円もらえるというだけで参加したので、割とどーでもよかった。


偶然にも前の席に座った女の子が「キミおもしろいね」と話しかけてきた。

それが彼女だった。

後日まちあわせて会ったのは深夜の渋谷。確信犯かよ。笑

お酒もよく呑み、タバコも吸う。大学のサークルでバンドをやっていた私は、やはりサークルでダンスに打ち込んでいた彼女とカルチャーが通じ合うところがあった。

そして私は恋に落ちた。ついでに2人とも選考には落ちた。(座布団くれ)


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バンドとダンスのバックグラウンドから、お互いが共通項として持てたのが「命を燃やして生きる」感覚だった。

ステージに立つ者が知る、観客の視線に焼き焦がされるような感覚。メンバーとの夜通しの練習。呑んで泣いて笑って呑んだ日々。

お互い水商売で働いていたのもあって、ギラギラとした情にまみれて、ともすれば腫物扱いな世界とも親しみがあった。


田舎の決して裕福なわけではない家庭育ちでナンチャッテ進学校出身のお上りさんである私と、シティガールの彼女とでは、遊び方や金銭感覚に多少の違いはあった。

しかしそれを超えてなお余りある想いであったと思う。あんまり書くと恥ずかしいな。

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そんな彼女がランジェリーブランドを立ち上げると決めたのは、初夏のころだったろうか。

内定先のインターンで仲良くなった先輩が起業した話を聞き、それに触発されたとのことだった。

もともとバイタリティあふれる彼女だ、将来は起業して経営者になると前々から聞いており、私もそれがいいと思っていた。

と同時に、複数の自分の事業が上手くいかず、周辺の人間関係にも亀裂が入り始めて悩んでいた当時の私にとって、彼女が嬉々として夢を語る姿はとても眩しかった。


いったいどんなブランドを、どんな想いのもとに始めるのだろう。

いつものDi PUNTOで彼女が語ったのが「男性への復讐と、女性として生まれた悲しみの浄化」であった。


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彼女は決して男に媚びたりなどしない。私は私。その強い意志に敬服している。

そんな彼女でも、生理現象は起こるし、社会構造を意識するし、女性でなければ受けなかったかもしれない仕打ちを受けたことすらあった。また周囲の女性が同様の苦痛に忍ぶのを目の当たりにしてきた。

そんな彼女の背負うカルマが、以下に綴られる。

女性であることを悲しむひとが、減りますように。

女性に生まれたことを、心から喜べますように。


そう語る彼女の瞳には信念が宿っていて、私は戦慄した。

小学生くらいの頃から、常に彼女はこの原罪意識にも似た重いカルマを背負ってきたのだ。


私は所謂privileged positionにいる「特権階級」だ。男性で、長男で、健常者で、異性愛者で、学歴もあり、中流家庭育ち。バンドマン時代はマスキュリニティに腕を鳴らしていた。

だから留学中にジェンダー・マイノリティースタディーを専攻し、ステレオタイプな男性像にはなるまいと考えている。

しかしそんなこと全くカンケーなく、ただ彼女のカルマの重さ、覚悟の深さ、純粋で芯の通った靱さ(つよさ)に、私は心の底から震撼し畏怖の念を覚えたのだった。

(念のために付記:彼女の発言の意図は、男性への逆差別の類とは全く異なります。どうか誤解が生まれぬことを望みます。)


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「その想いに、最初に寄り添う人間でありたい。」


私はそう応えた (ような気がする、衝撃すぎてよく覚えていない)

私のサポートなんて素人の微力に過ぎないから、はじめの壁打ちならまだしも、本格的にローンチしグロースする頃には無用の長物かもしれない。

それでも、彼女の想いの一番近くに、一番はじめから、一緒にいたい。

このエゴイスティックな申し出を、彼女は快く受けてくれたのだった。


こうして始まったランジェリーブランド事業。

ブランディングにマーケティングに、オンラインショップ開設やOEM工場への営業、そもそもの創業体制から資金繰りまで…文字通り手探りで奔走しています。

まだ詳細は伏せますが、近いうちにWasei Salonメンバーをはじめ皆さんにご意見を伺い、ともすればご協力をお願いすることもあるかもしれません。

ここWasei Salonの雰囲気と合うようなものになるかどうかもまだ正直わかりませんが、ご縁があったらな、と思います。

そのときはどうか、彼女の神輿を担ぐ私もろとも神輿として、片手の一本指の先だけでも担いでやってくださると大変幸いです。


長文駄文に惚気文、失礼しました。

どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。


P.S.

鳥井さんと湯浅さんの投稿に大変勇気づけられました。また、それを温かく力強く応援するメンバーさん達の様子にも。

このコミュニティに入れて本当に嬉しいです。もっと皆さんの言語を、空気感を私も血肉化したい。

若造ですが、今後ともどうぞよろしくお願いします。


9月の夜行バスで軋む身体と、名古屋駅にて|夏井


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