長田夫婦、小松崎夫婦と一緒に、長野県にある「nagare」という一棟貸しの古民家宿にご招待していただき、1泊2日でお邪魔してきました。
夜は、インスタライブも配信し、簡易的なトークイベントも開催してみました。
このライブ配信の中で、宿を運営している石川ご夫妻に僕が直接聞かせてもらったお話のひとつに、「開業するまでに3年も掛かってしまった」というお話があり、僕はこのお話にとっても感銘を受けてしまいました。
なぜなら、わかっている感で満足するのではなく、本当にちゃんとわかろうとしている姿勢がそこから見事に伝わってきたからです。
今日はそんなお話を少しだけ、このブログにも書いてみたいと思います。
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近年、ライフスタイルに特化したホテルや宿は日本各地に急増しています。
センスが良さそうな空間にみせることは、本当にものすごく簡単になりました。
たとえば、タオル。イケウチオーガニックさんのタオルを選ぶホテルや宿、セレクトショップはかなり増えてきたように感じます。
多少割高だとしても、それだけである意味「わかっている感」を出すことができてしまうから、いま広く選ばれているということなのでしょう。
でも、本当にわかっているかどうかは、全く別のお話。
思うに、昔はこの「モノ選び」自体が一番難しかったのだと思います。そしてそこに「センスが宿る」と言われていた時代もあります。
でも、今は違う。InstagramとTwitterを一日中眺めていて「イケてる風景とは何か、世間的に評判の良いものは何か」を一瞬で理解できてしまい、それらを猿真似するように導入していけばいい。
つまり、モノ選びにおける情報格差はなくなり、そのようなセンスは一瞬にして民主化されてしまったのです。
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だからこそ、あちらにもこちらにも、写真映えするセンスのいいホテルや宿が雨後の筍のように現れているわけです。
でも、それだけでは一生超えられない壁もまた存在している。
本当に「理解している」ひとたちは、その背後に言語化しづらい「重み」や「顔」が見えてくるような感覚があるのです。
これは、どれだけSNSを眺めながら、札束を積んでネット通販を駆使しながら、モノをかき集めてみたところで、一生超えられない壁です。
時間をかけて、一つずつ丁寧に自分たちの納得感を通じて選んでいく作業が必ず必要になってくる。
具体的には、実際に製作の現場を訪れて、つくっているひとたちと直に対話をし、本人の言葉で咀嚼する作業が絶対に必要になります。
この作業を繰り返した中で選ばれているものなのか、そうではないのかは一瞬で理解できてしまうようになってしまいました。その結果、選ばれているものがその場で生きているのか、死んでいるのか、そんなことも手にとるようにわかってしまうのでしょう。
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この表現だけだと多少分かりづらいかと思うので、この話を「本棚」に喩えてみましょう。
名著や話題作を並べたセンスのいい本棚は、今の時代は誰でも簡単につくれてしまいます。
何が「教養」あふれる「オシャレ」な本なのかは、ネットを眺めていればすぐに理解できてしまうし、Amazonを使えば、たとえ絶版の本であったとしても、簡単に手に入れることができてしまいます。
でも、その本棚に並べられた本を、すべて自分の力で読み通すことはかなり難しい。
そしてただ一読して目を通すだけではなく、自分の中でしっかりと咀嚼して、一冊一冊に書かれている物語を自分の言葉で伝えられるようになることは、もっと難しい。
でも、この自分の言葉で語れる瞬間になって初めて、ただの商品でしかなかった「書籍」は、選んだ人に実際に読まれた「書物」に変化していくわけです。
目の前に存在する他人の本棚が、ただ書籍を並べただけなのか、ひとに読まれた書物が並んでいるのかは、誰であってもその放つオーラや雰囲気によって理解できてしまうはず。
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今の時代において、本当に想いをもってつくられているセンスの良い商品というのは、この「本」と一緒なんです。
一つずつ必ずそこに固有のストーリーが存在する。そのストーリーを自分の言葉で伝えられるようになっていること、その物語を構成する要素をつくり手と共有して、私たちの「ナラティブ」になっていること。
揃っているものが全く一緒で客観的に瓜二つの空間であったとしても、そこには雲泥の差があります。
じゃあ、共有されたナラティブにするためには具体的にはどうすればいいのでしょうか。
それは、つくり手と一緒に「山」を登ってみる必要があるのだと思います。
TwitterやInstagramは、山頂に何があるのかを知るためには非常に優れたツールです。だからこそヘリコプターに乗って、山頂にあるものをただ集めてくることは、本当に簡単になりました。(繰り返しますが、昔はこれが一番難しかった)
でも現代において本当に大切なことは、つくり手と共にその山に登る「プロセス」のほうだと思うのです。
そうすることで初めて、つくり手と選び手の両者が対等に語ることができる「ナラティブ」に変化する。
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この点、今回訪れた「nagare」は、自分たちの言葉でちゃんと表現できている空間となっているように感じました。運営する石川ご夫妻の背後に「重み」や「顔」がしっかりと見て取れたのです。
だからこそ「開業するまでに3年間も掛かってしまいました」とちょっと恥ずかしそうに笑いながら語る姿は、本当に魅力的だなあと感じました。
逆に言えば、まだ自分たちの言葉にできていないものは「存在は知ってはいるけれど、選んでいない」という矜持までそこからしっかりと伝わってきた。
何を表現しているかと同時に、「何を表現していないか」という我慢している様子も、お二人の姿勢を通じて見事に伝わってきたのです。
じゃあなぜこのような芸当ができてしまうのかと言えば、2年弱という長い時間をかけながら、お二人で一緒に一歩ずつ自分たちの足を使って、世界一周をされた経験があるからだと思います。
このあたりのお話は、ぜひご本人たちの口から直接聴いてみてください。
本当にとっても素敵な空間で、ぜひともWasei Salonメンバーのみなさんとも一緒に訪れたい場所です。
いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの考えるきっかけとなったら幸いです。
2022/06/15 10:53