今日2月18日3:43に、子供が産まれた。

妊娠がわかったのが6月下旬。
想定外というわけではないのだけど、自分の人生にそんなことが起こるのかというのを、妊娠検査薬の2本の線を驚きを持ってまじまじみていた気がする。
まだ実感はないものの、その線によって、病院に行く必要があること、以降お酒を飲んでは行けないことが明確になった。

普段からの酒量や頻度が高いわけではないけど、直前にかなりの量のお酒を飲んだ会があったので、心配になってとりあえず検索し、この時期なら影響がないことを確認する。

同時によさそうな病院を探して、まずは予約。
行くと少し早いけどと先生がみてくれて、お腹の中に小さな部屋ができていることを教えてくれる。その時点でまだ住人はみえなかった。
そのことを夫にラインで報告すると、
「へえ、ワンルームなんだ!」と想定外の回答が返ってきて笑ってしまう。
今考えるとお腹の中は、キッチンリビングダイニング一体型なので、夫が言ってることはあながち間違ってはないのかもしれない。

にしても、気づいたら「妊婦」という存在になってしまった。妊婦さんは飲食に色んな制約があることは知られている気がするけど、例えばもし仮に私がお酒を飲んだら、下戸の人の口を無理矢理あけてお酒を流し込むのと一緒なのか!とふと気づいて、恐れ慄く。私はなんて、おそろしい存在になってしまったんだ。
自分の行動がダイレクトに影響してしまう存在がいる、そのことはとても不思議で、最初はこわさの方が大きかった気がする。

妊娠初期、さいわい悪阻等はかなり軽く、体調面ではかなり恵まれている方だったけれど、それでも身体の状態がコロコロ変わるのが妙にしんどかった。
多くの人は健康であっても、しんどいと頭痛が出やすい、お腹にくるといった身体の傾向を持っていると思う。そしてそれぞれの傾向に合わせて、私たちは日々の生活の中でたぶん微妙な調整を行なっている。
それがはたまた妊婦になると、その「傾向」とやらが微妙にコロコロ変わるので、その変化に追いつけないまま、ネット検索などで情報収集をしてやりすごす。

今考えると存在していなかった生命をこの世界で生きていけるところまで育むのだから、そりゃあ色んな変化があって当たり前だよなぁと思うのだけど、身体や体調が妊娠に気づいてから出産まで日々刻々と変わっていくというのは動揺もありつつ、中々新鮮な体験だった。

妊娠中期の「安定期」とよばれる時期は文字通り比較的体調とその変化も落ち着いていたので、いつも以上に美味しいものを食べたり、周りにたまに心配されながら出張もちょこちょこしていた。産休という区切りができたことによって、遊ぶこと、働くこと共に「今できることをしっかりしたい」という気持ちが増していた部分はあったのかもなぁ、と振り返って思う。

そんな中でも身体の負担はかなり気にしながら過ごしていたのが幸いしたのか基本的に大崩れはしなかったけど、お腹が大きくなる中でバランス崩してバスから降りる時に転倒してしまったり小さな事件は時折あって、そんな時はかなり落ち込んだし、自分がひとりの身体ではないことがより意識された。

出産予定日(余談だけど、英語だとdue dateというらしい)1ヶ月弱前まで働いていたので、正直休みに入るまでは全然赤ちゃんを迎える準備も終わっておらず、他の妊婦さんが着々と段取りを進めている中で随分ぼんやりしていた気がする。
臨月前に休みに入って時間ができてなんとか準備を進めるのと並行して、お腹もどんどんボールみたいにまるくなって、体調面の変化もまた大きくなってきた。もはやここまでくると、歩いている、というよりは、運んでいる感じ。
臨月に入ったあたりから元々大きかった動きがさらに大胆になって、肋骨がひっぱられて苦しくなったり、より一層の生命力を感じる日々だった。私のお腹の中って結構居心地いいのかなー、そんな風に勝手に解釈してみたりもした。

お休みに入って2週間強、ようやく準備も概ね終わり、あともう少し、彼が私の中にいるのもあと10日くらいかぁ。そんな感慨を胸に妊婦生活を振り返ろうとパソコンをひらいたところで、あれ?なんか体調悪いかもと思い、無理するのはやめておこうと、こたつに横になって本を読むことにした。
本を途中まで読んだところで、気持ち悪さとお腹の痛みが一段階増したので、寝室にうつりゴロゴロしてみたのだけど、あまりの痛みで全く寝れない。

ようやく色んな兆候からこれは本当の陣痛かもしれないと気づき、深夜に震えながら病院に電話してしどろもどろ説明するとすぐに来るようにいわれる。
そこから車で40分ほど移動して、病院に着いてからなんと20分で産まれてしまった。

痛みは尋常じゃなかったけど、病院に着いてからあまりに一瞬でまだ夢を見ている気がする。
はじめて抱きかかえた時、まだ残っている強い痛みと、あなたが入ってたのね!よく頑張ったねぇという喜びと、自分のお腹という家にもう彼がいないさみしさがないまぜになって、少し涙が出てしまった。
あの異常な脚力でもう肋骨を蹴られることもないのか…

ずっと妊婦でいたいなんて全く思わないし(正直にいうと、もう少しゆっくりしたいから予定通りにきてとは思ってたけど笑)やっと本人に会えたのに、自分が彼がお腹の中にいないことをこんなにもさみしく思うことに少し驚いて、10ヶ月ずっと一緒にいたんだなぁ、なんてことをあらためて実感したりした。

この10ヶ月弱、私は家になって、家じゃなくなった。これから彼の家は私の今住んでる家であり、この世界が家になる。
いや、私は彼の家じゃなくなったけど、日々形を変えて家であり続けるのかもしれない。あり続けたい。

世界は決して完璧ではないし、大変なこともあるけど、きっと楽しいことも美しいこともたくさんある。
私は君が来てくれて本当に嬉しい。
ようこそ世界へ!これからよろしくね!