最近、鈴木敏夫さんのラジオ番組「ジブリ汗まみれ」を一気聴きしました。

この番組は、本当に大好きな番組で、もうかれこれ13年以上は聞き続けています。

最近は、新作『君たちはどう生きるか』の話も少しずつ語られるようになってきたのですが、「本当に今年公開するの!?」っていうレベルで今回は本当に何も語られません。

『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』など、過去に公開されてきた作品とは比にならないくらい今回は、このラジオの中でさえ、めちゃくちゃ秘匿されているように思います。

しかもそれは、鈴木さんがかなり意図的にそうしているようで、できる限り今回の作品は何も告知しないように心がけているようなのです。

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すでに公開されているあの一枚絵でさえも、本当に公開はしたくなかったとのこと。

東宝に頼まれて渋々公開したと、番組内では語られていました。

じゃあ、なぜギリギリまで情報を出そうとはしないのか?

はっきりとは明言されていませんでしたが、それは、『スラムダンク』映画の成功があったからのようです。

これを受けて、僕が個人的に今強く思うのは、作品の宣伝の手法というものが『スラムダンク』以前と以後で、ガラッと変わりそうだなと。

なんなら、あえて前評判を落とすことさえ厭わないという今回のスラムダンク方式が、これからの映画宣伝の主流となりそうです。

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きっとこれは、ここ10年ぐらいの時代の揺り戻しなのだと思います。

SNSなどを通じて、前情報を段階的に少しずつ小出しにしながら、丁寧にお客さんと共有していき、公開のタイミングでは、ほとんど中身がわかったような状態でお祭り感を作り出すことが、これまでの主流でした。

いわゆる鉄板の「カスタマージャーニー」のような手法を用いて、単純接触効果など心理学の手法なんかも用いながら、それまでにはなかった無料公開などが、ものすごく一般的なマーケティング手法となったのがここ10年です。

スラムダンク方式は完全にその逆張り。

これは、お客さんが単純にそういう「確認作業」や「スタンプラリー」的なものに、飽きてきてしまっている証拠でもあるんだろうなと思います。

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実際、昨年公開された『すずめの戸締まり』も突然公開されて、突然人気になった印象がありましたよね。

前評判を全くしらなかったからこそ、僕らはあの映画にあれだけ熱狂できたのだと思います。

昨年、大ヒットした『スラムダンク』と『すずめの戸締まり』の2作品は、決してその内容だけではなく、従来のマーケティング手法とは全く異なる角度から攻めてきてくれたからだと思っています。

あとはたぶん、昨年大ヒットしたNetflixオリジナルの『First Love 初恋』あたりなんかもまったくそう。

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で、これは映像作品に限らず、ものすごく大きな風向きの変化のような気がしています。

もちろん、このような横綱相撲をとることができるのは「スラムダンク」や「ジブリ」作品、新海誠作品というような公開された瞬間に内容がどんなものであれ、コアなファンが一挙に訪れるような作品に限られるでしょ、という指摘はごもっともだと思います。

でも、その機運のようなもの、風向きの変化のようなものは今このタイミングしっかりと僕らも感じ取ったほうがいいと思っています。

安っぽいマーケ手法が、もう完全に通用しない時代に突入している。

いまネット上で語られている、なんちゃって「クリエイターエコノミー」なんかもまさにそうだと思います。

「それなりの物さえバイネームでつくってくれさえすれば、あとはインターネットやSNS上で結果の出る鉄板のマーケティング手法で、どうにかしますよ!」と約束して、実際にどうにかできたのは2023年までです。

そして、今ここにきて、生成系AIが誕生してきてしまったことは、間違いなくそれに拍車をかけていると思います。

なぜなら、ここから「生成系AI×鉄板マーケ」が世の中に氾濫していくから。

たぶんここで従来のマーケティング手法は、完全に終了です。

今年の上半期ぐらいまではもの珍しがられても、一気に市場に似たような作品とマーケティング手法が溢れかえり過ぎて、その賞味期限が今年以内には間違いなくしぼむ。

まさに数年前に流行った、タピオカみたいなものですよね。

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それよりもたぶん、これから必要なものはクリエイターの「夢と狂気」なんだと思います。

宮崎駿さんや高畑勲さん、そして井上雄彦さんや新海誠さんのような、突き抜けた天才と、それをなんとしても伝えたい、表現したいという渇望感のようなものがめちゃくちゃ重要になってくる。

そして今後、プロデューサーやマーケターの役割というのは、早くからそのような突き抜けた天才を見つけ出してきて、それにしっかりと寄り添い、実際にその表現をひとつの徹底的に作り込まれた作品にまで昇華させることになっていくと思います。

クリエイターの中にあるそんな「夢と狂気」を極限まで濃縮還元できるかどうか。結局のところ、これは1990年代ぐらいまで逆戻りしたとも言えそうです。

ただ、それが当時はマスの中だけ、限られた世界でしか実現しなかったことではありますが、2020年代の新たな特色というのは、それがネット上の一般庶民のあいだでもそうなるよ、ということなのでしょうね。

そして、これこそが本当の「クリエイターエコノミー」の大本命だと思いますし、その手段として、具体的なトークンエコノミーが開幕していくのだと思います。

その中で、NFTというのはきっと、映画で言えば「製作委員会方式」の民主化みたいなもの。

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あと、最後に余談で、これはあくまで直感レベルでしかないですが、たぶんその主役の座を担うのは、男性ではなく女性性(※女性には限らない)になると思います。

夢と狂気のある、女性のクリエイターがこれからは活躍する時代になる。

なぜなら、彼女たちこそ、これまで一番抑圧されてきたから存在だからです。

なにはともあれ、2023年4月に入って「何か大きなもの」その風向きが完全に変わったように感じています。

それが一体なのか。

今日から本当の意味で、何にも忖度することなく、炎上も恐れることなく、好きなことを本当に思ったまま書くことができる空間を生み出すことができたので、これからしっかりとそのあたりを言語化していきたいなと思っています。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となったら幸いです。