僕らは仕事や勉強に疲れると、「脳を休ませる」という表現を日常的によく使います。

その最たる例が「睡眠」でしょう。

しかし、人間は起きている時も寝ている時も、脳の使うエネルギーはそれほど大差はないそうです。

つまり、寝ているあいだも脳は、決して休んでいるわけじゃない。

じゃあ、寝ているあいだに脳は一体何をやっているのか。

この点、解剖学者・養老孟司さんの説明が非常にわかりやすかったため、ここで少し引用してみたいと思います。

ー引用開始ー

 意識は秩序活動だと述べた。ところが熱力学の世界では、自然界に秩序が発生すれば、その分だけ、どこかに無秩序が発生しなければならない。熱力学の第二法則である。「エントロピーは増大する」とも表現される。これをきちんと説明すると、本一冊になっても終わらない。ここではそういうやかましい話ではなく、直感的な理解で議論を進める。 

 意識は間違いなく脳から発生する。それなら脳で秩序活動が起こっている分、無秩序が脳内に発生するはずである。それなら脳はその無秩序を片付けなければならない。乱暴にいえば、だから寝るのだ、ということになる。寝ている間は意識という秩序活動がない。その間に脳はエネルギーを消費して無秩序を解消する。

引用元:遺言。(新潮新書)

ー引用終了ー

そう考えると、人間にとって「仕事」や「学び」というのは、意識の出力を最大限にし、目の前の出来事にフォーカスして、自ら「秩序」をつくり出している行為と言えそうです。

一方、「遊び」というのは、意識の活動をできるだけ抑えて、無意識の活動に委ねて「無秩序」をつくり出す行為だと言えるのかもしれない。

だから、きっと脳にとっての一番の「遊び」の状態というのは、睡眠時なのだと思います。

「休みの日は、何しているの?」という質問に対して、「寝てる」という答えは案外理に適っているわけです。

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もちろん、睡眠時に限らず、散歩や森林浴、登山など、意識的に「マインドワンダリング」の状態をつくっているときは「脳を遊ばせるための時間を積極的に確保している」のだと言えそうです。

その間もひたすら脳は「無秩序」をつくり出すために、エネルギーを消費しながら、私の意識とは全く関係なく処理作業を続けている。

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この点、「仕事」や「学び」が煮詰まったから、散歩してくるという状態は、Macで作業しているときにマウスのアイコンがクルクルと回り始めている状態に似ている。

そんな時はいったんパソコンから離れて、全く別の作業を行ってしまえばいい。

その後、しばらくしてパソコンの前に戻って来れば、その間もパソコンは動作を続けていて、処理は終わっているはずです。

人間の脳もこれと同じで、煮詰まったらシャワーを浴びたり、寝て起きたりすれば、突如「わかった!」となるような感覚が得られる。それはまさにこのようなことが起きているのだと言えそうです。

つまり、脳が「意識」の束縛から解放されて、全力で遊びながら無秩序を作り出していくなかで、処理が完了しているということです。

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昨夜、Wasei Salonのグループ研究会イベント「遊ぶとは何か」の中でみなさんの話を聞きながら、そんなことを自分は考えました。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても何かしらの参考となったら幸いです。