今夜、Wasei Salonで読書会が開催される岸政彦さん著『断片的なものの社会学』。

この本の中に、とても考えさせられる問いがあったので、今日はこの問いについて自分なりに少し考えてみたいと思います。

それが「そもそも幸せというものは、もっとありきたりな、つまらないものなのではないだろうか」という問いです。

ーーー

まずは、早速本書から該当部分を少し引用してみます。

ー引用ー

    ここで、ひとつの考え方がある。それは、「さまざまな価値観を尊重しましょう」というものだ。だから、おしゃれをしたりメークをしたりすること自体が悪いことなのではなくて、それを他者から、あるいは社会全体から強制されてしまうことを否定しましょう、ということである。たとえば無神経な上司から外見をからかわれたことを気にしておしゃれをする、ということは、いかにも屈辱的なことなのだが、自分なりの個性的な価値観と信念に基づいておしゃれをすることは、何も悪いことではない、ということになる。     

だが、私はここから本当にわからなくなる。私たちは「実際に」どれぐらい個性的であるだろうか。私たちは本当に、社会的に共有された規範の暴力をすべてはねのけることができるほどのしっかりした「自分」というものを持っているだろうか。

むしろ私たちは、それほど個性的な服を着ることよりも、普通にきれいでかわいい服を着て、普通にきれいでかわいいねとみんなから言われたいのではないだろうか。個性的である、ということは、孤独なことだ。私たちはその孤独に耐えることができるだろうか。     

そもそも幸せというものは、もっとありきたりな、つまらないものなのではないだろうか。

ー引用終了ー

この問いは、本当に難しい問題だなあと思います。

なぜか私たちは、「普通」を享受することに少なからずの罪悪感や怠惰、自己欺瞞を感じ取ってしまいがち。

でも、ここで岸さんが書かれている通り、「普通を享受できていれば満足」という人々が、実はこの世の中の大多数のはずなのです。

その普通が欲しいだけの人たちに対して「個性的であれ!」と迫るのは、どう考えてもおかしい。

たとえるなら、周囲を気軽に移動できる「軽自動車」が欲しいと思っている人に対して、「自家用ジェットを購入しないと、本当の移動の自由は手に入らなくて不幸だぞ」喧伝しているようなもの。

そして、そんなふうに言われてしまうと「確かに移動距離は少しでも多いほうが便利だよな…」なんて考えてしまい、自家用ジェットを購入するために、目の前の普通からは目を背けて、自分を殺しながら、家族も見捨てて、あくせくと働き続きてしまう。

そして、運良く自家用ジェットをやっと手に入れられた場合でも、「今度は自家用ロケットができまして…」となり、本当にキリがありません。

だから、まず大前提として、この世の中において整えるべき環境は、「普通」を普通に"消費"できる空間であり「その状態を享受することが、何も悪いことではない」という価値観の転換なのだと思います。

ーーー

しかし、そんな世界でも「普通」を消費することが地獄のように辛くて、自己を持て余してしまい、自ら率先して「孤独」のなかに進もうとするひとたちが必ず現れてくる。

それは、いつの時代も変わらないのでしょう。

僕は『自省録』という本が好きなのですが、例えばこの本を書いた第16代ローマ皇帝、マルクス・アウレリウスもそのような人のひとりだったのかもしれない。

ただ、彼のように、それだけで幸せな「普通」を拒否して、孤独の道を進もうと望むのは、世の中の全体の数パーセントだけ存在すればいい。

数パーセントでも存在していれば、この世の中はちゃんと変化し続けて、安定した社会はこれからも維持・継続されていくのだから。

ーーー

以上のような理由から、僕の考えは、全てのひとにまず「普通」を普通に"消費"できる状態を享受できるようにすることであり、

そして、その普通に耐えられなくて、どうしても「孤独」の道に進みたいと望むひとたちに対して、周囲が邪魔しないことが、ものすごく大事な要素だと考えます。

しかし、いまの世の中ではこの正反対のことが行われている。

具体的には、中高生に対しては全員に「夢を持て!」と迫り、社会人になると「常識」という言葉を用いて出る杭は打たれてしまうという構造。

そして、本当は普通でよかった人たちも、普通以上のものに憧れさせられて、都会で挑戦することが善であると信じさせられて、予想通り、どこかのタイミングで大きな失敗をし、周囲から散々搾取された挙句に、最後は自己責任だと見捨てられてしまう。

ーーー

「普通」を普通に追い求める道。

「孤独」を孤独に追い求める道。

その両者が等しく拓かれている世界が、万人にとって本当に優しい社会なのだと思います。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となったら幸いです。

ーーー
3月に開催されるWasei Salonの体験型イベントはこちら。