ここにきてVoicyが改悪されて、無課金ユーザーは1.2倍速までしか倍速再生できなくなってしまったみたいです。

この変更は、ちょっと本気でVoicyを続けようかどうか悩んでしまうレベルです。

とはいえ、有料の音声配信が可能なプラットフォームは実質、Voicy一択なのでとても悩ましい。

ちきりんさんを筆頭に、ものすごく有益な収益改善施策を提案してくれているパーソナリティたちがいるのに、それは一切無視し続けるVoicy社には、さすがに強い違和感を感じずにはいられない。

各パーソナリティからの提案を無視し続ける理由も、明確には説明されていないはずですからね。

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ただ、今回の件は、誰がどう見ても悪手であることは間違いないし、他のパーソナリティのひとたちと同じことをここで自分が語っても仕方ない。

そして、みんなが石を投げているときに、良かれと思って一緒になって石を投げることは、みっともないことだとも思います。

ここではあえて、Voicyだからこその利点について、いま改めて考えてみたいなと思います。

代表の緒方さんも、こんな批判が飛んでくることも承知のうえで行っている新たな施策だと思うので、だとすれば、その裏の裏にある真の狙いも想像してみたい。

僕自身、このような改悪が行われても、やっぱりVoicyからお引越ししたいとはあまり思えず、その理由について深めて考えてみると、音声コンテンツの現在地みたいなものが見えてくるのかなと思いました。

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まずこの点、今のVoicyと相性が最悪なひとたちは、とにかく新規のリスナーを獲得し続けて、期待感だけを煽って、幻滅させてを繰り返すという、焼畑農業的な手法の人々だと思います。

そういう情弱ビジネスは、いまだとYouTube、インスタライブ、TikTokのようなティーン向けの動画配信アプリに完全に流れてしまっている。

良くも悪くも、他にもっと中毒性の高いものがたくさんあるわけで、ひろゆきさんやビジネスエンタメ系ユーチューバーに見事に捕まってしまい、ここまでやってこなくなったわけですよね。

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だとしたら、なにも知らない無知な「今北勢」なんかを相手にしていても仕方ない。

今回のVoicyの決断を、もしポジティブ解釈をするならば、この層を完全に捨てた、ってことだと思います。

YouTubeやTikTokに流れた、いわゆる「情弱ビジネス」的な手法に響くような層をあえて捨てて、より深くコンテンツやパーソナリティに向き合ってくる良識あるリスナーに絞ろうと。

逆に言えば、今ならAIの情報などを発信し、情弱ビジネス層を狙おうとしている人たちには、さっさとSpotifyやYouTubeに行って欲しいということなんだと思います。

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で、そんな良識あるユーザーに届けたいとなれば、やっぱりVoicy一択になる。

なぜなら、パーソナリティとリスナーとのその距離感が絶妙だからです。

もちろんSpotifyを筆頭に、Podcastも良いとは思うのだけれども、そうすると圧倒的に距離感が遠くなる感覚があるんですよね。

これは何の根拠もなく、僕のタダの肌感でしかないですが、同じ音声配信でも、やっぱりVoicyとPodcastの距離感って、まったく異なります。僕は、オーディオブックカフェと同時にやっているから、なおのことそう思う機会は多い。

これは本当に不思議なことだなあといつも思います。

逆に言えば、多くの人が「耳で聞くコンテンツ」だから、VoicyもSpotifyで配信されるようなPodcastも同じものだと思っている。

でも本当は、完全に似て非なるものであり、全くの別物です。

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じゃあ具体的には一体何が違うのか。

Voicyは、個人の配信で、その「メッセージ」が一番大事になっている。

一方でPodcastは、グループや番組の配信で、その「関係性」が一番大事だと思います。

Podcastに配信されているラジオ番組は、基本的には演者が2人以上で、演者同士のワチャワチャしている様子が好まれるのが特徴です。

「オードリーのオールナイトニッポン」もそうですし「OVER THE SUN」なんかもそう。

言い換えると、Podcastはその「関係性」を聴いている時に立ち現れてくる分人の私が好きかどうか、という基準で選ばれている。

でもVoicyは関係性がない分、そのひとが発する「メッセージ」を聴いている時に立ち現れてくる分人の私が好き、じゃないと聴き続けてくれないわけです。

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これはたぶん、具体例を挙げればもっとわかりやすい。

一番有名でわかりやすいところだと、コテンラジオだと思います。

たとえばあの番組が、深井さんひとりで同じようなPodcast番組をSpotifyなどで配信していても、決してあのような大人気番組にはなっていなかったと思います。

たとえお話していることが、まったく同じ「情報(内容)」だったとしても、です。

逆にコテンラジオという番組を、ゼロからVoicyでチャンネル化して始めていても、Podcastで配信しているときほど伸びなかったことも明白です。

そして、仮にもし深井さんがおひとりでVoicyを配信されていたら、やっぱりVoicy内で人気パーソナリティになっていることは間違いない。

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それぐらい、プラットフォームの色によって結果は異なるということです。

ラジオって「情報価値」ではなく、関係性こそが大切で、その演者同士のコミュニケーションの成功それ自体に大きな価値がある。

確か去年ぐらいに「男性ポッドキャスターたちの、男性同士のワチャワチャを消費していて、それは性的消費だ!」という話がバズっていましたが、そもそもそのような関係性を二人以上で配信するプラットフォームが、Podcastなんですよね。

いやいや、一人だろうが二人だろうが関係ないっていうかもしれないけれど、それはあまりにも形式しか見ていなさすぎる。

空気を気にしがちな日本人にとっては、それはM-1に出るか、R-1に出るかぐらいに大きな違いだと思います。

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で、Voicyは、ほとんどのパーソナリティが個人で配信をしている。

だから、ここで関係性が重視されるグループによる番組を配信しても、場違い感が出てしまうわけです。

むしろVoicyは、ホストとゲストの立ち位置が明確な対談コンテンツのほうが相性が良くて、最初から演者同士のフラットな関係性における番組やコンセプトは刺さらない。

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そして、最近のVoicyは明確に大きく舵を切っていて、なんなら大きくピポットをしていて、この「個人の距離感」へと完全に振り切ろうとしているような気がします。

具体的には、配信者のコアコアな100人程度の課金しても聴きたいと思うようなファンを集めるためのプラットフォームになろうとしている。

そんな濃ゆいエンゲージメントを耕すためのプラットフォームにしようとしている気がします。

「再生数は10分の1になっても、コアなファンは10倍になったよね!」を目指すためのプラットフォームです。

そしてその判断には、とても強く同意するところもある。

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なぜなら、本当に大事な関係性、これからのAI時代でも好きなことに挑戦できるという関係性は、いまこちらに完全に移り変わってきているからです。

音声配信において、ここをしっかりと耕せる、この芽がちゃんと出ているプラットフォームは、今のところVoicyしかないと思います。

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実際、僕自身も、通常配信の再生回数は明らかに目減り傾向にありつつも、プレミアム配信のリスナー数は今でも順当に増え続けている。

そして、まったく解約もされない。

これは本当にありがたいことだし、なによりも自分自身がいちばん驚いています。

こんなことは、今までのインターネット上のプラットフォームではあり得なかった。本当に奇跡みたいな出来事が起きているなと思います。

普通なら無料の再生数や閲覧数に応じて、それに比例するように伸びるのが有料課金の常識であるはずです。

比較的近い属性にある、noteでさえもそうです。

だからこそ、各プラットフォームで配信をしているコンテンツクリエイターたちは、引きの強そうな「撒き餌的な煽りコンテンツ」を無理矢理にでも作成し、その撒き餌に食いついてきてくれた人々の中の1%でも有料課金(メンバーシップ)に流れてくれればそれで御の字、と捉えてしまいがち。

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でもVoicyの場合、そうじゃない。逆に、それでは関係性が深まっていかないんですよね。

また、このような撒き餌的なビジネス構造で起きている社会問題や構造的ジレンマこそが、緒方さんがご自身の起業で解決したいと思われている現代の真の問題意識でもありそう。

だから、煽り系のスタンスの配信者には「どうぞ別のプラットフォームへ行ってください」というハッキリとしたメッセージでもあるのだと思います。

とはいえ、そっちもそっちで修羅の道でもあるわけです。

5年前ならまだしも、もはやそのようなわかりやすい情弱ビジネスに引っかかる人たちはいなくなってしまったというか、ひろゆき的なもの、ビジネスエンタメ系ユーチューバー的なものに全部ガサっと刈り取られてしまっていて、もうこの領域までたどり着いてくれない。

リテラシーを高めるまえに、中毒性の高いコンテンツによって薬漬けにされているような状態になってしまっている。鮭が、川をのぼる途中にクマに食べられちゃうみたいな話です。

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Voicyだけが、本当の意味でコンテンツ、そのメッセージを通して両者の関係性を深められるプラットフォーム。

それはやっぱり、音声特有の離脱率の低さ、また個人に完全に振り切っていることが大きいことは間違いなくて、これも本当にすごいことだなと思っています。

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繰り返しになりますが、ラジオは、良くも悪くも「関係性」が大事なメディアだから、内容やメッセージそれ自体が届いていない場合も多いなと感じます。

Podcastやラジオを聴いている人たちの一体どれだけの数のひとたちが、コンテンツの内容までを深く聴いているのか。

でも、配信されるたびに聴いている人たちは「ファンです、コアリスナーです!」みたいなことを語ってくるわけですよね。

もちろん、配信側としてはその言葉は純粋に嬉しいと思っているとは思いつつ、それはそれで「孤独」を感じやすい。

ただただ、メッセージを誤読され、消費されているだけにすぎないわけですから。

ビジネスとしての”数字面”としては成功していても、ほんとうにつくりたいと願っている世界観に近づいているのかと言えば、意外と怪しかったりもして、この孤独に耐えられないひとたちもいる。

どちらかといえば、僕もそちら側のタイプです。

それよりも、全体の母数が10分の1、100分の1になろうが、しっかりとメッセージを深い部分で共感してもらえて、そのメッセージの先にある世界観に共鳴して一歩踏み込んできてくれるひとたちと、その未来をつくっていきたいなあと。

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さて、ここまでVoicyの唯一無二の立ち位置と、これから先に進もうとしている道を全肯定してきました。

とはいえ、やっぱり今回の倍速再生を課金ユーザー限定機能にしてしまうような打ち手は完全にデメリットでしかないと思います。

一刻もはやく撤回して欲しいことには変わりがない。

再生スピードをいじるなら、せめてVoicy+課金ユーザーは、3〜4倍が可能となる方向にして欲しい。

再生数が2倍までしかないから、そもそも現状Voicyを使っていないという層、アクティブユーザーにさえなっていないという層が、世の中にはかなり多いはずだから。

そして、YouTubeでさえ最近のアップデートで4倍速まで上げられるようになったのだから、3倍以上の倍速再生のニーズがあることは間違いない。

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特に現代は、みんなの耳が完全に慣れてきた状態にある。

これは僕が常々主張し続けていることでもあるし、オトバンクの創業者である上田渉さんも頻繁に語っているお話ですが、音声配信の倍速再生は、完全に「慣れ」の問題なんです。

筋トレみたいなもので、耳の筋力みたいな話。

この耳の筋力さえつけば、倍速再生も苦じゃなくなるし、自然と倍速でも聞こえてくるようになる。大半のひとはただ慣れていないだけです。

最初は聴けない中でも、無理矢理にでも聴き続けていると、そのうち自然と聴けるようになる。語学学習と全く同じです。

で、最近の若い子たちほど、この耳の筋力を自然と身についてきていることは間違いない。幼い頃からYouTubeなどでずっと英才教育を受けてきているようなものだから。

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ぜひとも、Voicyにはその層を取りに行って欲しい。

「音声配信は、3倍以上じゃないと物足りない」と感じる子たちの中に、比較的頭のいい良識のある子たちが揃っていることも間違いないはず。

音声コンテンツ業界の中で進もうとしている唯一無二の方向性は決して間違っていないと思うので、ぜひ引き続きVoicyにはトコトン頑張って欲しいですし、応援しています。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。