酒ばっかり飲んでいた一年だった。

 金が無くても「次会った時に俺が奢る!」と強がり、なけなしの交通費をポケットに突っ込んでは下北沢へ。給料が入った次の日は「来いよ! 俺がご馳走するから!」と、またもどうせいつもの下北沢へ。


 薫り高い煙立ち込める焦げ茶の居酒屋にドーンと構えて、ハツ。塩で6本。あと……レバーはあんまり焼かなくて大丈夫っす、あぁ、わかってるんすねえ。いつもありがてえなぁ。塩4本で。カシラも食いてえな。塩で6? 6本で。パーティーみてえだな。最高。あとあれだ、あの、もやしのやつ!! 味が濃くてうめえんだよな~~。お前食う? お前は? オッケー、じゃあそれ3つください。あとねー、なんだろうな。肉の刺身とか食えるかい? すげえうまいんだよ。1つ食ってみような。じゃあお姉さん、センマイ1つください。酢味噌と、できればごま油と塩を和えたやつがあると良いなぁ。うん、以上! おつかれ!! 乾杯だ~!! ういー!! うめえ~~~!!!!



 俺は、とにかく酒が好きだ。特段強いわけでもなく、飲めば大概記憶をなくして大事件を起こしてしまうんだけども。スナックで服脱いですっぽんぽんになったら出禁食らっちゃったのも懐かしいな。連絡先に並ぶ女友達に片っ端から電話して、「下北沢にいるから今すぐ来い!」って言ったりなんかして。誰も来ねえの。そりゃそうだ。急に電話かかってきて、出てみればぐっちゃぐちゃに酔っ払った奴が「来いよ!」って。そんなの行くわけないよな。わかってはいるんだけど、ねえ。


 そんなわけで、何につけても酒ばっかり飲んで記憶を無くしているもんだから、「一年の振り返り」なんてテーマに頭捻っても、何一つ思い返せないんです。そもそも記憶がねえんだから。『忘年会やろうよ!』と友達からお誘い受けて、「いや、俺、酒飲んだら毎回記憶ねえからいっつも忘年会っすよ」なんて返した。それぐらい、なーんも覚えちゃいません。


 自らの怠惰を究極なポジティブシンキングでなんとかしようと思ってみたら、なんとまぁ調子の良い思考にたどり着きました。



「思い出せない」というのも、ある種の幸せなのかもしれない。



 楽しいことは数えきれないほどあったし、飛び跳ねちゃうぐらい嬉しいことも、しんみり悲しいことも、ムカついて壁を蹴った夜もあった。でも、常と言って良いほど隣には「酒」がありました。そして何より、一緒に酒を飲める「友達」がありました。

 仕事で悔しい思いをした日、このまま家に帰るのやだなぁなんて苦しく、猫背をさらに曲げて歩いた夜道、ふと「あ、あの人誘って酒飲みたい」と思える友達がいました。

 恋人ができた肌寒い春先にも、「コイツとアイツにだけは絶対紹介したい。酒の席に誘おう」と、明るく鮮やかに浮かぶ友達がいました。

 そのどれもがとても良い思い出なんだろうけど、「酒」なんていうやたらと極悪な奴と絡めば最後、俺の頭には何も残りません。思い出せません。何を話したのか、どんな顔で、なんという名前の酒を、どの街で飲んだのか、そりゃもう知れたもんじゃない。


 思い出せません。何もかも、煙草の紫煙とアルコールに紛れてどっかへ消えてしまった。僕を現実へ連れ戻すのは、いつも決まって寝起きの頭痛と倦怠感だけ。友達からの連絡はいつも、『ちゃんと帰れた!?』というやつです。


 ジンジン痛む頭をぐっと押さえながら、「あー、なんも思い出せねえ」と独り言、そんなシーンばっかりでしたが、今年もきっと楽しかったんだろうと思います。充実していたんでしょう。うん。寝起き苦しい朝ばかりだったので。友達ができて良かったです。酒の席に誘える友達が、たくさんできました。墓まで持って行きたい思い出が山ほどできました。なーんにも思い出せねえけど。


 心優しき友人どもよ、これからもよろしく。また酒飲みに行こうな。思い出した時、また誘う。いつもいつも、どうもありがとう。幸せです。