最近、バスケ男子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチが書かれた新刊『スーパーチームをつくる!』という本を読み終えました。
昨年の男子日本代表のワールドカップの大活躍の舞台裏についてメインで語られ、今年のパリオリンピックに向けられて、新たに聞き書き形式で書かれた一冊になります。
ちなみに、前作の『チャレンジング・トム - 日本女子バスケを東京五輪銀メダルに導いた魔法の言葉 -』も素晴らしい内容でした。こちらはオーディオブックにもなっているので、興味がある方はぜひ合わせて聴いてみて欲しいです。
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で、最近は、なぜ自分自身がここまで日本代表男子のバスケに惹きつけられているのか、その理由をよく考えています。
正直、Bリーグには、ほとんど興味関心がわかない。
そうなってくると、代表「チーム」に何か秘密があるはずで、それは突き詰めるとトムさんのマネジメントに尽きるんだろうなあと思っています。
さらに戦術や戦略など、さまざまな技術的な部分もあるかと思いますが、僕が常に感心してしまうのは、それぞれ一人ひとりの選手に対してのその「敬意」の払い方が素晴らしいなと感じています。
これが自らのコミュニティ運営においても、非常に参考になる部分が多いなと感じさせられる。今日はそんなお話になります。
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この点、いわゆる「スポーツ」には文字通り「体育会系」の文化が根強く残っている感じがして、スパルタ教育や上下関係など厳しいイメージが未だにつきまといます。
現代社会の価値観や倫理観からはどんどんとかけ離れていくばかりで、もう観れたもんじゃないと思っていのたが、2010年代だったと記憶しています。
でも、僕が初めて「あれ、何かが変わってきたのかも…?」と意識したのはたぶん、前回のオリンピックからで、トムさんが率いていた女子代表が銀メダルを獲得するという快挙を成し遂げて、そのうえで彼女たちがとても楽しそうだったこと。
僕が知っているスポーツの代表選手たちの雰囲気のソレじゃない。とはいえ、最初は女子だからなのかなあと思っていた。最近の女子は楽しそうでいいなと。
でも、その後、トムさんが男子の代表監督に就任してから、去年のワールドカップあたりから男子も雰囲気も明らかに変わってきたなと思いました。
彼らの試合をずっと観ていたいと思わせてくれる雰囲気がそこにはある。もし代表選手の試合に対して「楽しそう」という表現が適切でなければ「生き生きしている」と言い換えてもいいかもしれないです。
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男子のヘッドコーチがトムさんに変わってからの見どころや、つい目が言ってしまうのはそんな選手たちの「生き生き」している様子と「勝利への執着」を見事に両立させている点なんですよね。
本書の中では「1964年の東京オリンピックのバレーボール女子「東洋の魔女」の選手たちが、金メダルを獲得したけれど彼女たちは、あまりに過酷な練習を重ねてきたので「楽しくなかった」と振り返ったそうです」という逸話が反面教師のように語られていました。
そして「楽しさが価値のすべてだとは言いませんが、楽しくならないともったいないと思います」と。
勝つことにしっかりとコミットしつつも、楽しむことも忘れないその姿勢。そのために、それぞれの選手の中にあるポテンシャルを無理なく、そして最大限に引き出している。
そして見事に新しい若い世代が、その指導方法に反応しし結果を出していることが素晴らしいことだなあと思わされます。
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また、トムさんは、優れたスタープレイヤーに頼らないチーム作りをするということを、いたるところで明言されています。
そうじゃなくて、チームとして勝ちに行くんだと。
今の日本代表にも、NBAで活躍する八村塁選手や渡邊雄太選手などスタープレイヤーが存在していて、記者が彼らへの期待の言葉を引き出そうとしても、まったく乗ってこないのが、本当にいつも印象的です。
あくまで日本代表のチームとして強くすることを大事にしていると一貫して語り続けている。自分たちが理想とするバスケットボールを行うための「パズル」を組み立てていくための12人を選んでいるのだと。
本書の中でも以下のように語られてありました。
私が大会へ向けて日本代表チームの12人を選ぶ時、実力で上から12人を順番にメンバーにしていくわけではありません。バスケットボールチームは1つの「パズル」であり、それが作品として完成してはじめてチームとして最大の力を発揮できるわけです。そして、そのパズルには様々な「ピース」があり、それぞれに特徴があります。その特徴こそが、私のいう選手それぞれの「役割」です。ですから、パズルの完成形を考えつつ、どのピースにどの選手を当てはめるのが最良かを考えています。
試合を観ていても、これまでと全然違うなあと思わされるのは、まさにここです。
本当にチームが勝つために、それぞれの選手が自分の「役割」を意識して集中している感じが伝わってくる。
それはコートに出ている選手から、ベンチにいる選手まで、ひとりひとりが強い納得感をもって、一丸となって「チームで勝つ」という意識が染み付いているように僕には見えます。
個々の不平不満な感じが映像からは全く伝わってこない。
血気盛んな20代が、こんなにも達観して、さらに満足そうに取り組んでいること自体が本当にすごいことだなと思います。
もちろんそこには「チームのために犠牲になろう!」というような献身的な態度が求められているわけでもない。あくまで全員がフラットに、各人の「役割」をこなしている。同じ目標を達成するために、です。
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で、トム・ホーバスヘッドコーチは「何してるんですか!」という動画で大きく世の中に認知されたように、常に敬語で選手ともコミュニケーションを取っているようです。
「外国人監督である自分は、日本語が完璧ではないから、日本語のスラングを使わないことをつけている」と本書の中でも語られていました。
しかも、そのコミュニケーションがどこまでも丁寧で、選手に対しての敬意に溢れていることが言葉の節々からとてもよく伝わってくる。
特に、僕が好きだったエピソードは、代表選手から落選した選手たちとのコミュニケーションの取り方の話です。
トムさん自身が現役時代に体験した無慈悲な選考のエピソードをもとに、もっとしっかりと落選した選手たちとコミュニケーションを取りたいと思ったという話が本当に素晴らしいなと感じました。
選考から落ちてしまった選手ほど、しっかりとその理由を伝えて、丁寧にコミュニケーションを取っているそうです。
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このような心がけが、ちゃんと機能しているんだろうなあということがドキュメンタリー映像などを通しても本当に強く感じられます。
具体的には、選考で残った選手たちにも、その敬意や思いやる気持ちがしっかりと届いているんだろうなあと。ヘッドコーチ発の敬意が、選手たちにもしっかりとゆき届き、それが選手内で増幅し、見事にチーム内で循環している感じ。
本書のなかで更に印象的だったのは、試合中に仲間が転んだら、お互いを助け合うというカルチャーがチーム内で根づいているという話です。
「倒れているプレーヤーを抱き起こす。痛んでいる仲間をすぐに助ける。いつの間にか、これは私たちのスタンダードになりました。私たちは激しい競争とともに、チームの結束を大切にしています。」と。
実際の試合映像を観ていると、これが本当にそうなっていて、試合後半のみんなが一番疲れているであろう場面でも、倒れている仲間がいると、すぐに全員が走り寄る。
当たり前のような話にも聞こえるかもしれませんが、実際にバスケットボールのコートに立ったことがある身からすると、笛がなって中断されているときに、それでも走って歩み寄るということが、いかに凄まじいことなのかが、痛いほど伝わってくる。
言い換えると、転んだ仲間に手を差し伸べるために助けにいくその一手間、その移動や労力を惜しまないことが、あのハードなスポーツにおいてどれだけ稀有なことなのか。
それを選手が自発的に行いたいと思わせるようなマネジメントをしていること自体が、本当にすばらしいことだなあと思ってしまいます。
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さて、このように、気づけば僕もいつの間にか、選手たちよりも、監督のマネジメントのほうばかりに反応するようになってしまった。
「もうこの年齢になると、観てしまうのは個々の能力が高い選手だけじゃないんだなあ」っていう一抹の寂しさなんかもありながら、でもこのほうがなんだか嬉しいなあと思う自分もいます。
「自分のことばかり考えているから鬱になる」という話と一緒で、どうすればチームとして強くなれるのかという観点で、取り組んでいる人たちの姿勢を学ばせてもらうことは、本当にありがたいことだなあと。
そして、実際に良いコミュニティをつくるためのヒント、その宝庫でもあると感じている。
いま一番参考にするべきマネジメントや、敬意の発し方がここにあると確信しながら、毎試合を眺めています。
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トムさん自身もかなりの読書家らしく、オーディオブックも大活用しているらしいです。
そんなトムさん率いる日本男子が、今回のパリオリンピックでどこまでいけるのか、本当に目が離せないなと思います。とても楽しみです。
少しでも日本男子代表に興味を持ってくれた方は、まずは今年の6月に公開されたばかりのドキュメンタリー映画『BELIEVE 日本バスケを諦めなかった男たち』が、Amazonプライムビデオでもうすでに配信されているので、ぜひそちらから観てみてください。
今日書いてきた内容の趣旨みたいなものが、きっと映像を通して理解してもらえるかと思います。
いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。