NHKのドキュメンタリー番組「カールさんとティーナさんの古民家村だより」が大好きで、配信されるとすぐに観てしまいます。


ドイツ人建築デザイナーのカール・ベンクスさんの古民家再生によって移住者が集まり、「奇跡の集落」と呼ばれる新潟県十日町市 竹所集落のお話です。

僕も、いつか必ず実際に訪れてみたい地域のひとつ。

この番組を観ながらいつも「この地域が他の地域と一体何が違うのか」を真剣に考えてしまいます。

きっと、さまざまな要因があると思いますが、これまで色々な地域の具体例をこの目で見てきて、特にこの地域の特殊性だなあと感じるのは「移住ハードルの高さ」です。

それゆえに、集まるひとたちが自然と選別されているのだろうなあと。

この土地に広がる「豊かさ」を求めて移住してくるひとも、移住を受け入れる側もお互いにその価値を理解し合いながら、一緒に深掘りできている。

だからこそ、お互いに尊重し合えているし、お互いに敬意を持ち合うこともできるのだろうなあと。

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では、具体的にはどういうことなのか。

まずは、ほかの地域の移住者促進の事例から考えたほうがわかりやすいと思うので、一般的な過疎地域の移住促進アプローチの話から書いてみたいと思います。

一般的な移住促進のターゲットは、都会暮らしをしているひとたちになります、当然ですよね。

じゃあ、都会暮らしをしながらもその都会暮らしに嫌気がさしているひとたちとは、一体どんな人たちなのでしょうか。

それは、主に「お金」と「人間関係」で悩んでいるひとたちになります。このふたつがうまくいかないと、都会暮らしは謳歌できない。

この点、地域ですぐに解決できそうな点といえば、お金面であり、つまり生活コストが格段に安くなる点です。

だからこそ、移住者を増やしたい地域は必ず、この点を強く主張してきます。

具体的には「古民家が200万円(解体費用と同額)で買えますよ」と喧伝し、「食糧も集落の農家さんから分けてもらえるから、食費はほとんどかからずに、月の生活費は3万円ぐらいで済みますよ!」と。

そうすると、毎月手取りで25万円ぐらいあったとしても、都会で上手に暮らすことができないひとたちには、夢のような世界に思えてくる。

そこに移住者向け補助金(数十万円〜数百万円)まで出るわけだから、お金に釣られて移住したくもなってくる。

でも、このようなひとたちは往々にして「金銭的なコスト」で自分の人生の行く末を判断してしまいがちです。

そうすると、もっと安い地域があったらそちらに移ってしまう可能性もあります。

また、都会で「人間関係」がうまくいっていない理由も、自己中心的な振る舞いゆえに、他者と分かち合えず、その地位に留まっている可能性が非常に高い。

つまり、あまり性格がよろしくない場合が多いのです。

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一方で、カールさんが手がけた古民家は5,000万円近い金額だそうです。

地方の場合、わざわざ古民家を改修せずとも、立派な一軒家が新しく建てられてしまうほどの値段です。

でも、これがひとつのハードル(選定基準)になっているわけですよね。

この家を、わざわざ買う人は一体どんな人なのかを考えてみましょう。

ある程度の社会的な地位まで上り詰めて、教養も備えている可能性は非常に高い。

地域にひろがる文化的な「豊かさ」もちゃんと理解できる素養がある。移住前には、文化人類学や民俗学的など学術的なアプローチからもしっかりと学び、豊かさの本質も理解していることは間違いないでしょう。

その結果、学んだことのフィールドワークを行うような気持ちで、地元の人々の暮らしに触れて、その土地に暮らすおじいちゃんやおばあちゃんたちとも触れ合い「その手」が美しいと心から思えるひとたちだと思います。

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つまり、都会で学びながら心理的にその豊かさを理解したひとと、その土地で生まれ育ち日々自然と触れ合いながら身体的にその豊かさを理解したひとの組み合わせになるから、最高のタッグになるわけです。

この喩えは適切ではないと思いつつ、『スラムダンク』の桜木花道と安西先生のような組み合わせになる。

このふたりの関係性の中に、海南のルーキー・清田信長のような人間や、陵南高校の田岡監督のような俗っぽい人間が入ってくるから、話がややこしくなってこじれてしまう。

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ここまでのお話をまとめると、都会から来る移住者と、その土地に暮らす住民が豊かさにおいてその見据えているものが一緒であること。

そして、そこまでたどり着いたアプローチが異なるがゆえに、お互いのこれまでの人生の歩み(プロセス)に敬意を払い合いながら、お互いの関心ごとに関心を寄せることができること。

それを、具体的に落とし込んだ地域が竹所集落なのだろうなあと。まさに急がば回れです。

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地域の移住促進を担当している方は、「ハードルを高くしたら、余計に人が集まってこないじゃないか!」と思うかもしれません。

でも、2〜3年ではなく20〜30年程度と、もっと中長期的な視点で考えると、きっとこちらのほうが反比例的に移住者が増える可能性がある。

では、金銭的なハードル以外で本当にこのような一定のハードルを設けることはできないのか。

貯蓄がない若者であっても、この豊かさを享受して分かち合うことがはきっとできるはずです。

それを今、僕はこのWasei Salonで実際に試しているところ。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となったら幸いです。