以前、Podcast番組「オーディオブックカフェ」でもご紹介したことがあるお金にまつわる名著の1冊『サイコロジー・オブ・マネー』。
その著者のモーガン・ハウセルが書いた新刊『アート・オブ・スペンディングマネー: 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』が、とても素晴らしい1冊でした。
https://wasei.salon/books/9784478123140
前作が「お金をどう稼ぐか、その価値をどう保つか」にフォーカスしているような本だとすれば、本書は「お金をどう使うかも同じくらい大事なんだ」と強く実感させてくれる一冊。
ーーー
そして本来、「お金」というのは、自分の理想的な「使い方」から逆算して、貯めたり増やしたり集めたりするものでもあるはずです。
だからこそ、本当は誰もが必読の書でもあるなと感じました。
でも現実には、だいたいの場合、まず増やしてから、使い方を考えさせられるわけで。だからこそ、余計にややこしくなってしまうジレンマがあるよなと感じています。
今日は、この本の中で書かれていて、「これこそが、ほんとうに大事なことだ」と感じた一節と、そこから自分自身が考えたことを書いてみたいと思います。
ーーー
では、さっそくまずは本書から引用してみたいと思います。『ブラック・スワン』や『反脆弱性』でも有名な作家・ナシーム・ニコラス・タレブの言葉が紹介されています。
作家のナシーム・ニコラス・タレブは、こう述べている。「嫌なことをしてお金を得るより、お金のために嫌なことはしないときっぱりと断ったときのほうが良い気分になれると理解したとき、あなたは真に豊かになれる」
同じく、価値を感じられないものにお金を使うことよりも、そうしたものにお金を使わなかったときのほうが良い気分になれると理解できたとき、あなたは賢くお金を使えるようになる。
このお話って、あまり言及されることはないけれど、実はものすごく大事なことだと思っています。
そして、この内容とすごく近いことを書いてくれているのが、森博嗣さんの『お金の減らし方』という本です。
https://wasei.salon/books/9784815626235
ちょっと変なタイトルだと思われるかも知れないけれど、「お金の使い方」ということを考える時に、こちらもほんとうに素晴らしい1冊だと思います。
森さんは、とにかく投資もしないし、資産運用もしない。時代に真っ向から反するスタンスです。
でもそれゆえに、書かれていることはめちゃくちゃ真理だなと思わされるし、マネー本を複数冊読むときには、こういった本も必ず合わせて読んでおいたほうがいいと思っています。
以下で、森さんの本の中で似たようなことが言及されていて、この考え方をさらに深掘りしているなと思う部分から引用してみたいと思います。
値段がすなわち価値だ、という安直な認識に長く浸かっていると、高価なものは価値がある、高価なものを持っていれば周囲から尊敬される、というような歪んだ価値観へシフトしてしまうかもしれない。何が間違っているのかといえば、自分の欲しいものがわからない人間になっている、という点である。簡単にいえば、自分の人生を見失っていることに等しいだろう。自分は何が好きなのか、何がしたいのか、ということを感じられないほど、感覚が麻療してしまう。一種の病気だといっても良い。
ーーー
自分の「好き」や「やりたいこと」が麻痺してわからなくなる。森さんはこれを一種の「病気」だと表現していて、多少言葉は強いと思いつつ、ほんとうにそのとおりだなと思います。
で、ナシーム・ニコラス・タレブも含めて、両者の本にも共通する点は一体何なのか。僕らに対して、一体何を気をつけろと言ってくれているのか。
それはきっと、「潰しが効く」という発想そのものだと思うのです。
そしてその潰しが効きそうな一番の効力を発揮するものが、現代社会ではお金である、と。
だからこそ、世間の人々は、お金があれば人生が無条件に豊かになると思っている。
ーーー
これはきっと、先日の最所あさみさんがゲスト回のプレミアム配信で語った、「都会」の話とまったく一緒です。
言い換えると、潰しが効くというのは、不可逆な決断をせずに済むということでもあるわけです。
問題の本質を見て見ぬふりをしながら、いつまでも先送りすることができる。お金というのは、そういう甘美な幻想をいつまでもひたすら与え続けていくれる。
というか、そういう甘美な幻想をすべてお金と引き替えに決断しないことを肯定してくれる場所が、東京を代表とした都会という資本主義中心の社会でもある。
ーーー
「他者もそれを欲しがっていますよ、だからあなたにもきっと必要だし喜ばれるはずです」という謳い文句のもと、何でもかんでも与えてくれる。
で、大抵の人々は、自分にとってほんとうに価値あるものとは何かを一度も真剣に考えたことがないから、そんなものかなと思いながら、他人が欲するものを欲しがり続けるように仕向けられるわけです。
このように考えてくると、都市社会がお金と紐づくのは当然で。
でも本当は、自分にとって何がほんとうに価値があるのかを見定めること、どれだけ世間で評価されていようとも、自分に不要なものはきっぱりと断る。
それが「腹を決める」という話にも見事につながるなあと思います。
ーーー
ここには明確に「売れているもの」と「自分にとって価値があるもの」が、いつの間にか混同されてしまう、という罠があります。
「価値があるから売れている」は事実である一方で、「売れていたら価値がある」ということにはならないわけです。
ましてや、それが自分にとって価値があるかどうかなんて、もっともっと別文脈の話。
でも現代は、売れているという状態それ自体がいくらでもハックされてしまう世の中です。
「何分で完売した」とか「アフィリエイトでバンバン売れているように見せかける」とか、アテンション・エコノミーの構造とまったく同じ。
「注目されているものには一定の価値がある」というのは、たしかに真実ではある。だからこそ今度は、「価値があると“思わせる”ために、注目を集める」がハックされてしまうわけですよね。
結果として、玉石混交の世界となる。そして、その玉石混交の中で「売れているから、きっといいものなんだろう」と盲目的に信じ続けてしまう。
ーーー
つまり、ほんとうに大事なことは数値で測定可能な尺度ではない、ということです。
この前提から疑い始めない限り、僕らはいつまでたってもお金や注目や影響力といった「数字に換算できるもの」によって振り回され続ける。
この事実に気づかないまま一攫千金がうまくいったとしたら、一見すると「大成功」に見えても、今のコスメや洋服、車など比較的誰もがちょっと頑張れば買えるものに振り回されている状態から、それが豪邸になったり、アートになったり、プライベートジェットに変わったりするだけ。
つまり、見た目のスケールが変わるだけで「構造」自体は何ひとつ変わっていないのだと思います。
ーーー
ここまで考えてくると、お金の金額の多寡は、真の豊かさとはほとんど関係がないとも言えそうです。
ここも非常に重要な点だなと思います。
もちろん、生活に必要な最低限度の金額のラインというものはある。それが幸福はある一定のレベルまではお金で買えると言われるという所以でもあります。
でも、ある一定の金額さえ超えてしまえば、あとは本人の心の持ちようひとつの話になっていく。
ーーー
『アート・オブ・スペンディングマネー』の中では、以下のようなことも書かれています。
価値観は人それぞれだが、私がシンプルな暮らしを好むのは、素敵なものを楽しみたくないからではない。むしろその逆だ。シンプルで質素な暮らしをしていると、たまに素敵なものを手にするとき、大きな喜びが得られる。
これは、僕もまったく同感です。
自分なりの基準を明確にしたうえで、なるべく質素に、簡素に暮らす。そうしていると、たまに素敵なものを手にしたときや、特別なものを食べたとき、本当に驚くほどの感動がある。
そして、その一瞬の感動も生ビールの最初の一杯目と同じように「限界効用逓減の法則」がしっかりと適用されて、一瞬で魅力が半減していくことも、また真実。
だからこそ、「質素な生活」を、自分にとってのニュートラルポジションとして設定しておくことが大事なんだと思います。
ーーー
もちろんその「質素」、つまり価値を感じられるライン自体も人それぞれ。映画「PERFECT DAYS」ぐらいまで質素にする人もいれば、東京で何不自由ない生活ができるぐらいが質素のラインの人もいる。
そこに正解はなく、自分にとってのそのラインを見つけることが大事だと思います。
実際、森博嗣さんは、子供時代から憧れていた「遊び」や「オタク活動」の側面においては、他者から見たら豪遊しているように見える。一般的な価値観からしたら、あまりにも”無駄”が多い。
でもそれこそがご本人にとっての質素、つまり価値を最大限に感じられるラインなんだろうなあと思います。
ーーー
そして、このような心の持ちようの結果として、自分にとってほんとうに必要だと思えるもの、価値があると思えるものにしか、お金を使わなくなっていくから、結果的にお金も自己の満足度も増えていく。
結局のところ「あなたは自分が本当に欲しいものを知っていますか?」という根源的な問いかけを、どちらの本も主張してくれているなと思いました。
お金を無尽蔵に増やそうと試みるのは、それからだ、と。
他人が評価するものではなく、世間で売れているものでもなく、自分にとって本当に価値があるものを見極める目を持つこと。
そして、それ以外のものには明確に「NO」と言える強さを持つこと。
お金について学ぶとき、自分にとっての豊かさを実感したいとき、しっかりと理解しておきたいことのひとつだなと思います。
いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。
