今年も12月に入ったので、テレ東BIZオンデマンドを見漁っています。

僕は例年、1年の世の中の流れを確認するように、12月の1ヶ月だけテレビ東京ビジネスオンデマンドを契約し、過去1年間に放送された「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」の配信をできる限り観るようにしています。

テレビを通して、普段全く交流のない赤の他人の「仕事」や「働く」を知ることって、実はとても大事なことだなあと僕は思っています。

誤解を恐れずに言えば、これも、カズオ・イシグロの「縦の旅」だと信じています。

テレビを見ることが「縦の旅」になるなんて誰も思ってもいないだろうし、そういう楽なことを「縦の旅」として捉えているのは、けしからんという話にもなりがちです。

でも、普段まったく交流がなく、今の時代の大きな流れみたいなものを知ろうとするときには、やっぱりテレビ、特にこのようなビジネス系のドキュメンタリー番組はとても有益だなあと思っています。

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特に、こうやって1年に1回まとめて観てみると、驚かされることも多い。

映像の中の当事者たちも、自分たちの特殊性に対して無自覚な感じも、とても良く伝わってくるなあと思います。

ということは、それはまた逆も然りであって、自分が当たり前だと思っていることも、他人からするとこれぐらい新鮮で、時には完全に意味のわからない仕事観だと思われているんだろうなあと思います。

ソレを覗き見させてもらえるだけでも、僕はとても価値があるなと思える。世間との温度差やズレみたいなものを自覚するうえで、非常に意味のある行為に感じるんですよね。

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この点、多くの人は自分の働き方しか知らなすぎるなと、いつも思います。

ただ当然ですが、自分が知っている「仕事」や「働く」なんて、世の中の氷山の一角に過ぎないわけですよね。ものすごく小さなタコツボ化した世界。

だとしたら、いろいろな働くを実際に観に行ってみることって、ものすごく大事だと僕は思うんですよね。「より良く働きたい、より良く生きたい」と思うなら、なおさらのこと。

「こんなことが世間では仕事になっていて、そこではこのような人間関係を構築していて、こんなにも稼げるんだ!」みたいな発見を、みんなもっとしたほうがいいと思っています。

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でも、なんとか自分が知っている知識や経験の範囲の中だけで、仕事をしようとするから余計に辛くなる。

それは、子どもが「学校」という狭い人間関係のなかだけで、なんとか自分の人生をより良くしようとあがいているのと、非常によく似ている。

だからこそ、構造的にスクールカーストが誕生したり、いじめに悩まされたりもしてしまうわけですよね。

でも本当は、学校の外には、大きな大きな世界が広がっているわけです。

大人は全員それを知っているから、こどもに対し「そんなくだらないことで死のうと思うんじゃない!」と堂々とアドバイスできる。

でも、大人にそう言われたって子どもたちがそう思えないのは、その世界しか知らないからです。

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大人たちも、いざ自分の「仕事」や「働く」になったら、まったく同じ状況に陥ってしまっているひとがあまりにも多いなと感じます。

そして労働者は、資本家や経営者、マネージャーたちの思考過程を、自ら進んで理解しようともしない。

高圧的に「おまえの働ける場所なんてここしかないんだぞ!」とか優しく「あなたの才能を活かせる場所はここしかない」とか嘯かれて、それをまんまと信じてしまう。

でも、そんなはずがないじゃないですか。

それも、自己保身に走る学校の先生なんかと全く一緒です。自分にとって、学校をやめられたり不登校になったりされることは不都合だから、先生はそういう説得の仕方をしてくるわけで。

学校の先生の欺瞞は簡単に見抜けても、資本家や経営者やマネージャーの立場を知らない多くの労働者は、簡単に騙される。

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だとしたら、まずは知ろう、知ることが大事。

それぞれの立場にいるひとたち、違う業界で働くひとたちが、どのようなインセンティブによって働いているのか、そんな構造や、彼らの中にある葛藤を知るだけでも全く変わってくる。

その葛藤を知ることがまた他のビジネスアイディアにもつながるわけですし、次の世の中の流れも読めるようになってくる。

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で、そんなことを考えながら、最近観て特に良かったなあと思った番組は、「ガイアの夜明け」の「スキマを活かす新時代」というタイトルのスキマバイトアプリ、タイミーの回です。

https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/gaia/vod/post_306004
スキマを活かす新時代|ガイアの夜明け|テレ東BIZ(テレビ東京ビジネスオンデマンド)
2024年11月01日放送ガイアの夜明け。深刻化する人手不足。どの業界も働き手を求める中、急成長している労働市場がある。面接も履歴書も必要なしで、スマホのアプリから、単発で「スキマバイト」をするスポットワークだ。企業の副業解禁などの中、その手軽さから、空いた時間に様々な仕事を請け負い、報酬を得るスポットワーカーたちが急増している。若者世代だけでなく、シニア世代にも広がり、登録者はのべ2500万人に拡大。人手不足が深刻な飲食業界・ホテル・運送業・介護業界など様々な業界で、スポットワーカーが欠かせない存在となっている。雇用主とスポットワーカーを繋げるアプリを開発し、スポットワークという新たな市場を開拓した業界の先駆者タイミー。現在、900万人のスポットワーカー登録者を抱え、スキマバイト利用率No.1を誇っている。今年、この急拡大するスポットワーク市場にメルカリ、LINEヤフーなど大手IT企業も続々と参戦、市場競争が激化している。業界No.1を守るために、タイミーが打ち出した新たな戦略は、スポットワーカーたちの能力に応じた「賃上げ」。深刻な人手不足の中、即戦力の人材が欲しい企業に、タイミーが抱える優秀なスポットワーカーたちをマッチング、高時給で雇ってもらうというプロジェクトだ。さらにキャリアアップしたいスポットワーカーたちに正社員化への道筋をつけていくというチームも立ち上がった。急拡大するスポットワーク市場の最前線に密着。待遇改善への挑戦を追った。◎スポットワーカーの高時給をめざせ! 先駆者タイミーの新たな挑戦急拡大するスポットワーク市場、そのNo.1の座を誇るタイミーを立ち上げたのは、小川嶺代表(27歳)。20歳の時に、事業資金を借り、アパレル会社を起業したが、事業目的を見失い、挫折。その借金返済のため、日雇い、派遣、アルバイトで働く中で、スキマの時間を活かすスポットワークという新たなビジネスモデルを思いつき、タイミーを設立した。スポットワーク市場を切り拓き、創業わずか6年で上場を果たした業界の先駆者だ。他社が次々と参入し競争が激化する中で、タイミーが打ち出した新たな戦略は、スポットワーカーたちの高時給の実現。「最低賃金1500円」への引き上げが叫ばれる中、優秀な働き手の時給を、現在の最低賃金に200円程度を上乗せし先手を打つ狙いだ。しかし、時給アップは雇用する側の企業には大きな負担に。コストを抑えたい企業からどう求人を引き出すのか。タイミーの挑戦を追った。◎スキマバイトで見つけた、新たな人生の選択東京・新橋のオフィス街で繁盛する居酒屋「THE 赤提灯」。一見すると普通の居酒屋だが、店長と厨房の2人以外は全員スポットワーカーたちだけで回している。周囲のスタッフに気を遣いながら、笑顔で接客をするのは宮野尚子さん(62)。スキマ時間を利用して、この店で60回以上スポットワークをしてきた。店長からも接客を評価された宮野さん、働く中で接客の楽しさを実感し、接客のコンサルタントをする夢を持つようになった。スポットワークを通して、新たな人生の選択をした人々を見つめる。◎スポットワークから正社員へキャリアアップスポットワークという新たな形の非正規労働の拡大で懸念されるのが、かつて大量解雇で社会問題となった「日雇い派遣」のような雇用の不安定化。タイミーはこうした問題を繰り返さないため、スポットワーカーを正社員につなげる新たなプロジェクトチームを立ち上げた。チームのメンバーは10名。キャリア相談から、これまでのスポットワークの実績を踏まえた求人の紹介などを行っている。群馬県で生まれ育ったスポットワーカーの菊池知保さん(39)は、和歌山県にあるリゾートホテルの正社員の内定を決めた。この秋から正社員の道を歩み出す菊池さんの夢とは‥。
txbiz.tv-tokyo.co.jp

数ヶ月前に「タイミーの利用者の半数は40代以上」みたいなニュースがSNSを駆け巡って、就職氷河期世代ツライとか老後世代もツライとか「世も末だな」的な話がSNSで話題になっていたけれど、この番組見る限り、それだけでもなさそうだということがとてもよくわかる。

もちろん、これはこれでテレ東のポジショントークでもあるとは思いつつ、実際にこんなふうに使われているんだあという新たな発見にもなったし、たぶん未知との遭遇やマッチングアプリ(いい意味で)的な要素もあるんだろうなあと。

つまり、従来の「高齢者のギグワーク = 貧困」という単純な図式ではなく、新たな働きがいや出会いを求めている感じがヒシヒシと伝わってきました。

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60歳を過ぎたひとたちが「自分にとって本当に合っている仕事をみつけたくて!」と、とてもイキイキとした顔で、タイミーを利用する理由を語る様子は、なんだか非常に新鮮です。

もう定年を迎えたひとが、20代の若い子みたいに語る姿なんて、若ければ若いほど理解不能な印象を抱くと思います。

高校を卒業したあとの子どもが「理想的な部活を見つけたくて!」とか「本当に私に合ったクラスを見つけたくて!」って言っているのと一緒ですからね。

でも、実際にそういう世界だって現代には存在していて、こういう人たちがこれから世の中に増えてくれば、また世の中の「仕事」はガラッと大きく変わっていくわけですよね。

だったら、そうやってスキマ時間で働くスポットワーカーのひとたちの「働きがい」や「働く意欲」みたいなものはしっかりと知りたいし理解したいなあと僕なんかは思います。

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あとは、アプリの進化なんかにも驚きました。

具体的には、タイミーの中にバッジ制度があることなんて全く知らなかった。つまりゲーミフィケーションが採用されているわけです。オンラインゲームなんかにも近づいている。

リアルのバイトが、ミッションみたいな感じで組み込まれているような感じです。

こうなってくると、もはやオンラインゲームをやっているのか、労働をしているのかわからなくなってくる感覚もとても良くわかるなあって。

実際、番組内では銀行で働いていて定年退職した男性が、1,000時間以上タイミーで働いていて、マスターの称号を得て喜んでいた姿は、なんだかとても印象的でした。

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で、きっとこのようなスキマ時間の求人の中に、今後はWeb3やトークンエコノミーのコミュニティの仕事なんかも、入混じってくるのだと思います。

そして、その報酬支払いが、トークン払いや、カブアンドのような未公開株が当たり前になる世界線もやってくる。まさにゲーム感覚で。

両者はそのようにして近づいて、お互いに融合していくはずなんですよね。

そうすると、本当にトークンやポイントだけで生きている、少なくとも副業はソレで十分という世界観もやってくると思います。

定年退職をして既に第一線を退いた人々も、老後資金はある程度あるけれど、カルチャーセンターにいって、時間とお金をただ消費するのはもったいないと感じて、もっと現場で働きたいという人たちは、このような仕事先を率先して選ぶようにもなるでしょうから。

もちろん、本当の専門性の高い仕事以外は、こうやってすべてスポットワークになっていくことで、人々はドンドンと孤独化・孤立化もしていく。職場でのコミュニティみたいなものは期待できなくなるわけですからね。

そうすると、より一層家族と会社以外の「第3のコミュニティ」の価値も高まっていくはずです。

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アプリの中の様子と、ソレを使って満足しているユーザーの様子を知らないと、こういう両者が融合してくるであろう、みたいなこともわからないわけです。

他人の「働く」や、人生に興味を持つこと。それが、たった数百円のオンデマンド配信でいつでも観れるんだから観たほうが良い。

「仕事が忙しくて観られない」というのは、僕からすると順序が完全に逆であって、こういうのを観ないから(知ろうとしないから)搾取され続けて、他人の働くを観る時間さえも確保できないということだと思います。

そうすると、余計に自分の世間や界隈に閉じこもっていくことになるから、さらに搾取したい側からすると好都合な状態になる。世間知らずのカモほど、騙しやすいひとたちはいないわけですから。

ちきりんさんもよく仰っていますが、若い子たちが闇バイトを中心に、投資詐欺にもハマりやすいというのは、彼らが自分のスマホの中に閉じこもってくれているからですよね。

そうやって、リアルでもバーチャルでも「横の旅」しかしないから、若い世代は簡単に騙せるようになってしまった。テレビでトップニュースを観ているだけでも、騙されなくなるはずなのに、ソレさえもしていない、と。

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こんな時代だからこそ、テレビ番組による「縦の旅」は本当に有効だと思います。

そのうえで、実際に興味を持ったら、直接現場に足を運んでみたり、興味のあるコミュニティ活動に参加してみたり、新しいサービスや仕組みに実際に自分自身で触ってみるということが大事なんだろうなあと。

12月だけと決めて、本当に実際に観てみて欲しいです。日本のテレビはまだまだ捨てたものではないなあと感じています。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。