先日、NHKで放送されていた『アナザーストーリー』の「渋谷文化革命」の回を観ました。


この半世紀の間、渋谷がドンドン変貌していったその変化の様子を丁寧に描いてくれていたドキュメンタリー番組になります。

で、この番組を観て、そういえば最近の渋谷のスクラブル交差点側って全然行ってなかったなあと思い、この前、夜の8時すぎぐらいにふと、渋谷のスクラブンル交差点からセンター街の方向を歩いてみました。

コロナ以降はここに訪れていないと思うから、センター街を通ったのは5年ぶりぐらいだったと思います。

僕の記憶だと、4月のこの時期のセンター街といえば、大学生が新歓コンパなどをやっていて、新しく上京してきたであろう若者たちが大声で叫び酔っ払って歩いているのが、この時期の風物詩だったように記憶しています。

でも、久しぶりに訪れて本当にビックリしたのは、ここは外国になったのかなと思うぐらい、日本人の若い人たちは影を潜めて、ひたすら訪日外国人たちで溢れかえっていました。ありとあらゆる人種の人々が、スマホ片手にその渋谷の風景と自分をセットで収めようと必死に自撮りしていました。

印象しては、浅草以上に外国人が多い場所になっていたんじゃないかと思います。

ーーー

時代が変化すると、こんなにも町の様子が一変するんだなあとしみじみ感じていたときに、また全然別軸で、最近公開された劇場版の『名探偵コナン』を観に行きました。


コナンには全く興味関心はなかったのですが、今作に関しては、僕の地元である北海道函館市が舞台であるということで、人生で初めてコナンの映画を観に行きました。

すると映画館の、熱気がすごいんです!

僕が知っているセンター街として覚えていた賑わいは、まさにコナンを上映する映画館にあったと思いました。

しかも、アニメオタク的な若い人たちではなくて、本当に渋谷に歩いていそうな若い子たちが、そこに大量にいたんですよね。

「今は、ここにマスがあるんだ!」って心底ビックリさせられました。

僕が観たタイミングは公開から1週間が経過した週末の都内の映画館で、一番大きなスクリーン。にも関わらず、ほぼ満席状態です。

昨今のコナンの勢いは噂には聞いていたけれど、本当にすごかったです。今年一番ビックリしていることは何かと聞かれたら、間違いなくこのコナンの劇場版の体験をあげると思います。

じゃあ、内容はどうだったかといえば、こんな言い方したら怒られるのかもしれないけれど、いたって普通の名探偵コナンです。

大人に大人気だと言うから、僕がしばらく観ないうちに何か大人向けになっているのかとも思ったけれど、本当に普通に小学生の頃に観た劇場版の名探偵コナンと何も変わらない。

いつもどおりの展開が、ひたすらに続いていきます。

ーーー

あとこれは完全に余談なのですが、函館市のPR映画なのかなあと思うぐらい、めちゃくちゃ緻密に函館が描かれていました。

描かれているすべてが「本物」で一切手が抜かれていない。ネタバレになりそうなので曖昧に語りますが、目立つ観光地だけでなく、移動シーンなんかも、かなり厳密に描かれていました。

その地点からその地点に移動し、その時間経過なら確かに今はそこにいるはずだという感じで、何の変哲もない一般道の様子も現実に忠実に描いていて、それを実際に知っている地元の人間としては、本当にビックリした。

描いたひとは相当長い時間、函館に滞在し、観察をしたんだろうなあと思います。たぶんあの映画をみて、地元の人間が一番感動する。

あと、どうしたらこんな勝確のコナンの劇場版に、観光PRとなるような状況を挟み込めたのか。そして、その実際の函館に及ぼす経済効果も気になるところ。

函館市の市長が大泉洋さんのお兄さん変わってすぐに、このようなPR映画が、全国で大々的に公開されるているわけですからね。

もちろん、今回の映画でも主要キャラで大泉洋さんが声優に抜擢されている。そう考えると、今回に限らず、いつか大河ドラマで大泉洋が主役の幕末の物語なんかも配信されて、函館も再び人気の観光地や移住先になるのかも…?と、淡い期待なんかも抱いてしまいます。

ーーー

さて、なぜ、若者にこれほど人気なのか?という話に戻すと、このような代わり映えのない「水戸黄門」のような設定が逆にいいんだろうなって。

僕らが小学生の頃から観ていたコナンと、その設定は一切何も変わっていなくて、ただただそこだけ時間が止まっているような感覚です。

変わったのは、スマホやZoomが当たり前のように劇中に描かれていたことぐらい。

客席の雰囲気も、子供のころからコナンを観てきた子たちが、がそのまま大きくなって「今年も名探偵コナンを観に来ました!」という感じ。上映前のワクワクする顔は、まさに子供みたいな顔なんですよね。

20代の若い子たちがこんなに晴れやかで、ワクワクしている顔の空間って、現代の東京にあるんだ!って本当に感動するレベルです。

ーーー

映画終了後も、場内の光が灯されるとともに、一斉にそこらじゅうで考察トークが始まる。それは、本当にすごいざわめきであり、光景でした。

もちろん、デートでコナンを観に来ているカップルも多い。

しかも、かなりイケイケな感じのカップルも多かった。サイゼリヤデートは炎上するけれど、コナンデートは許されるんだと、昭和生まれの僕からすると心底驚いてしまいます。

そして今、間違いなくマスはここにあるなと。

ーーー

ここからは完全に、僕の勝手な考察になりますが、コナンのように止まっている時間が、今の若い子たちには、きっとものすごく心地よいのだと思います。

なぜなら、現実のほうが慌ただしく変化していくから、です。

言い換えると、成長せず、変化せず、ずっと無限ループして状態のほうに価値を感じている。

現実が変化だらけの状況の中で、『マトリックス』や『攻殻機動隊』のようなSF映画なんかを観たいと思うわけがないんです。

つまり、若い人は時代を進める気なんて全くない。意識が高い若者は別として、少なくともマスの若い人たちは、時代を進めることをイケてることだとは決して思っていない。

逆におじさんたちがSF作品を好むのは、自分たちの青春時代にはそのような変化が全然なかったからだと思うんですよね。そして若い頃の記憶を今もずっと引きずっているだけ。

ーーー

で、インテリ系のおじさんたちは、このような状況を眺めながら「社会人になって、もう大人なのに、今でもコナンを観ているなんてけしからん!」と水を差すのかもしれない。

「日本だけが、映画のランキングが違う!」みたいな批判も、Twitterなんかでも頻繁によく目に見かけますよね。特に社会派系の映画が軒並みアカデミー賞を取るようになってからは説教臭く、そのような言説が頻繁に語られるようにもなりました。

でも、言葉を選ばずに言えば、そんなのは「うるせーよ」と思います。

コナンの劇場は、なんだかすごく幸せそうで純粋にいいなあと感じました。

自分がこの毎年の風物詩を体感する側に回るかどうかと問われたら、それは明確にNOではあり御免被りたいとは思いますが、ただこのような楽しそうな状況は必ず守らなきゃだめだよなと思う。

ーーー

以前、東浩紀さんと猪瀬直樹さんの対談の中で、平和ボケしている日本人を「ディズニーランドにいるような状態」と猪瀬さんが批判していたのに対し、東さんが「ディズニーランドのような場所をつくることがどれだけ難しいことなのか。そして、それを守ることが平和でもあるんじゃないか」という話を語られていて、それは本当にそのとおりだと思ったんです。

そのディズニーランド的な平和というのがまさに、劇場版の『名探偵コナン』であり、それはパンとサーカスの「サーカス」だとも言えるわけだけれど、そんなサーカスこそが「平和」が続いている証である。

この問いは考え始めると、なかなかに入り組んでしまう議論ではあるのだけれども、少なくとも今のマスが熱狂しているサーカスは、コナンにあって、僕自身はこの景色は決して壊してはいけない。むしろ積極的に守っていくべき場所だと思いました。

ーーー

そしてきっと、今日ここで語ってきたような出来事が世の中にはたくさんあるんだろうなあと思うのです。

具体的には、自分が思っていた場所に、もうとっくにマスはなくなっていて、過剰な資本主義と円安の波によって、外国人たちに侵略されてしまっている。

外国人にとっての観念の世界やイメージに迎合し、彼らのSNSの「背景」として消費されてしまっている。

一方で、子供向けや一部のオタク向けだと思っていた場所に、アニメネイティブの若者たちを中心に、日本のマスが移動しているというような。

その変化を察知して、ちゃんと味わっておかないと、自分の中にある何十年も前のイメージで物事を観てしまうことになって、完全に現実を見誤ることになる。

ーーー

僕らが「センター街を知っている」と言っても、10年前のセンター街と今のセンター街は同じ空間でも、全くの別物なわけです。

そしてそれは『名探偵コナン』という作品に対しても同様です。今の世間のコナンへの熱狂はもう、僕らが小学生のころのコナンの熱狂とはまったく違う。

どうしても、年齢を重ねれば重ねるほど、5年前の話も、まるで昨日のように語ってしまいがちですが、でも5年間って15歳の子どもが20歳になっているような時間軸ですからね。

それぐらいの時間の隔たりがあることを忘れないでおきたい。

だからこそ、自分が興味の持てる範囲内で普段はあまりいかない場所にも好奇心を持って積極的に訪れてみることは、改めて大切だなあと思った次第です。

ーーー

何はともあれ、劇場版の『名探偵コナン』は本当に衝撃的だったので、ご興味がある方は、ぜひなるべく早いうちに、大都市のなるべく大きなスクリーンのある映画館で、その熱狂を感じるために、観に行ってみてください。

「なるほど、今のマスはここにあるのか!」と強く体感できる本当に数少ないチャンスだと思います。

そして、この映画を観たあとにはぜひ我が地元・函館にも訪れてみて欲しい。

きっと映画を観終わったあとに訪れてみたくなるはずですし、映画を観たあとであれば、より一層、函館を楽しんでもらえるはずです。それは函館出身の僕が保証します。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても何かしらの参考となっていたら幸いです。