僕らは、気づかないうちに従来の価値観や、これまでの社会の構造に強い影響を受けています。

そのことに対して自覚的になることは、とっても難しい。

では、一体どうすればそのことに自覚的になれるのでしょうか。

何度も、このブログで取り上げてきた問いです。

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この点、先日『フランス現代思想史 - 構造主義からデリダ以後へ 』(中公新書)を読みました。

本書で語られていた「哲学の役割」と「思想=メガネ」とたとえられていた部分が、この問いに対しての大きなヒントとなりそうです。

誰にとっても非常にわかりやすいたとえだなあと思ったので、このブログの中でもぜひご紹介してみたいと思います。

以下は、本書からの引用となります。

ー引用開始ー

ドゥルーズガタリ(※20世紀に活躍した哲学者と精神科医のユニット)によると、「哲学」の仕事は、まさに「概念を創造する」ことにある。つまり、「新たな概念」をつねに「創造する」ことが、「哲学」なのである。

たとえば、デカルトの「コギト(われ思う)」、カントの「批判」、ヘーゲルの「精神」などは、そうした「新たな概念(コンセプト)の創造」と呼ぶことができるだろう。しかし、「新たな概念を創造する」とは、いったい何を意味するのだろうか。

ドゥルーズガタリが「概念(コンセプト)」と呼んだものを、ここでは「思想のメガネ」と言いかえることにしたい。というのも、新たに創造された「概念」によって思考すれば、今までとはまったく違った思考が可能になるからだ。それは、あたかも「メガネ」をつけることによって、世界の見え方が変わることに似ている。

思想家たちは、「思想のメガネ」を創造し、「これをつけて世界を見てごらん、今までとは違った風景が広がるよ!」と語っている。〈フランス現代思想〉は、今までにはなかった「新しい発想(コンセプト)のメガネを作り出した」わけである。それぞれの思想家たちが、それぞれ独特の「思想のメガネ」を創造し、それをつけて世界を見るように提唱したのだ。

ー引用終了ー

私たちは、自らの意志によって何かしらの「メガネ」を選び取ってかけようと思ったわけではありません。

そのため、大多数のひとは、自分は「裸眼」だと思い込んでしまっている。

その上で、他者のメガネはだけはとてもよく視界に入るため、「あの人は、なんて不道徳で不埒なメガネをかけているのだ!」と、他人のメガネ(思想)をカンタンに批判してしまう。

でも、僕らは気づかないうちに、何かしらのメガネを親から、先生から、社会から、与えられて育っているわけですよね。

そして、人間として生きている限り、メガネそれ自体を外して生活することはできないのです。(それを通して世界を認識しない限り、世界を認識し得ないから)

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そうだとするならば、僕らにできることはふたつです。

ひとつは、決して自分は裸眼なんかではなく、特定のメガネをかけているのだということに対して、もっともっと自覚的になること。

そして、メガネの種類やバリエーションに対して、積極的に興味を示し、それぞれの特徴を理解をしていくこと。

このふたつの能動的なアクションが今とても重要になってきているのだと思います。

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さて、同書の中で「なぜ思想をメガネにたとえるのか」、さらなる理由が語られている部分があるので、合わせて引用してみたいと思います。

ー引用開始ー

ドゥルーズガタリが「概念」と呼ぶものを「思想のメガネ」と言いかえるのは、ほかにも理由がある。

一つは相性であり、もう一つはスタイルである。メガネは誰にでも適合するわけではなく、メガネをつける人との相性が必要だ。

また、メガネをつけたときのスタイルも重要になる。たとえば、「メタルフレームのメガネ」と「黒ぶちのセルフレーム」では、どちらが自分に似合うだろうか。それと同じように、「どの思想のメガネ」が自分にとって相性がよく、また自分の生き方のスタイルに合っているのか。

同じ「欲望」について語っても、フーコーやドゥルーズやデリダでは、まったく違った世界が広がってくる。

ー引用終了ー

現代にはさまざまなバリエーションのメガネが存在していて、明治の偉人たちがかけていたような、いわゆる典型的な「丸メガネ」だけがメガネじゃない。

最近では、コンタクトやレーシックのような他者には見えにくいメガネ(視覚矯正)だって存在します。

また一方で、自分の目の前に広がる世界のほうを、すべてバーチャルリアリティーに変えてしまうことができる「VRゴーグル」だって登場している。

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もちろん、これらのメガネのバリエーションはすべて比喩ですが、それぐらい思想の幅が広がっていることは確かです。

であれば、世界に対して不満や不安がある人は、まずは自己のメガネのほうから点検してみることが、重要なのではないでしょうか。

そもそもこの世界はもともと無色透明で、かけるメガネによって、それぞれの視点から眺める世界が異なって見えてくるだけなのだから。

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自分のメガネ選びに、正解なんて存在しない。

自己との相性や、自らの選び取りたいスタイルと照らし合わせながら、適切なメガネを選択していく。

そのセンスがいま問われているのだと思います。