恋愛ムズイ。
『冬のなんかさ、春のなんかね』の話である。
今週の第5話は、前回の話からさらに1年前の話。
前回は、文菜(杉咲花)と小林二胡(柳俊太郎)が出会って、付き合って、別れるまでの話であった。
https://wasei.salon/blogs/cbd42815077e
文菜は、小林と出会ったとき、一つ前の恋愛を引きずっていた。今回は、その「一つ前」の恋愛の話である。
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2018年11月。文菜は大学3年生で、家庭のある男性と恋愛をしている友人にその男性と別れることを進言する。文菜は、付き合う人とはできるだけ長く付き合って、堂々とデートできた方が良いし、結婚を前提に置いた恋愛をする方が良いと考えている。当時の文菜は、そんな恋愛観を持っている。だからこそ、そういった「先がない」恋愛をしている友人に「やめときな」と言う。
このときの文菜は、自分の価値観をその友人に押しつけているとも言える。世界には善い恋愛と悪い恋愛があって、自分は善い恋愛をしたいのだが、あなたは悪い恋愛をしている。だから、悪い恋愛をやめて、善い恋愛をしなさい。と友人に言っているのだ。これはもうほとんど宗教論争だ。
そんな、文菜のことを「好きだ」という男性が現れる。その男性は大学の同期でツクダ(細田佳央太)という。
ツクダは、休講で使っていない大教室に文菜を呼び出し、文菜に告白する。見た目とか声が好きだし、性格も好き。極めつけは、大学の中庭で本を読みながら泣いていた文菜を見て、それがとてもきれいだと思った。だから、付き合いたいという。
文菜とツクダは、それまでそんなに話したことがない。思いがけない相手からの告白に、文菜はその場では答えを出さず、判断保留のまま何回か映画デートをする。そして、文菜の誕生日。ツクダはカフェでラブレターを文菜に渡し、もう一度思いを伝える。文菜はその思いにOKを出す。
晴れて付き合うことになった二人は、「呼び名はどうする?」とか言いながら下の名前を呼び合おうとしてみたり、「土田(文菜の姓)とツクダって似てるね」と言いながら笑い合ったりする。観てるこっちが恥ずかしくなる他愛もない会話だが、付き合い始めの大学生にとってはこういったやりとりこそが至福のひとときなのだ。テーブルに置かれた誕生日プレゼントのスノウドームも、二人のことを祝福していた。
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ツクダにとって、文菜は初めての恋人だ。
動物園デートに行ったとき、ツクダは文菜に「付き合っていく中で、色々とかっこ悪いところを見せるかもしれないけど、これからもよろしく」と告げる。そして予告通り、ツクダは自分の誕生日デートのときに「かっ悪い」姿をちゃんと見せる。
ツクダの誕生日、二人は焼肉を食べに行った。店を出てツクダのアパートに向かう帰り道、ツクダは文菜に「キスしたいです。すみません」と言う。その姿は実にかっこ悪いがそれでいてツクダの誠実さが表れている。この「すみません」には、「あなたを性的な目で見てすみません」という意味が含まれている。
ツクダはどこか、プラトニックな愛を信奉しているように思う。デートのときにも、手を繋いだり、体を寄せ合ったりしたい様子は特になく、文菜との間には心と心の繋がりを求めているように感じられる。
そんなツクダの内面に、文菜のエロスが侵入してきた。焼肉を食べている最中、日本酒がなみなみ注がれたグラスに、さながら『もののけ姫』のシシ神のように口をつける文菜に、ツクダはエロスを感じたのだ。
文菜が初めての恋人のツクダにとって、それは御しがたい衝動だったのだろう。文菜のエロスを抱えきれず、ツクダは文字通り「身悶え」し、その後文菜に「キスしたいです。すみません」と言うのだ。
文菜の目には、そんなツクダが正直で、優しい人として映っている。文菜はそんなツクダのことを心から好きだと思えている。
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しかし、ツクダの誕生日から2ヶ月後、二人は別れることになる。別れを切り出したのはツクダからだ。
できれば関係を続けたい文菜が理由を尋ねたところ「自分のことをもっと好きになってほしかった」というのが理由だそうだ。
文菜は内心で「好きだったのになぁ」と思う。
ツクダは、文菜との心の距離を不安がっていた。誕生日の焼肉の後、二人でワンルームの部屋にいるときも、ツクダは文菜を抱きしめながら「遠い」と言っていた。体の距離はゼロ距離なのに、心の距離が遠いとツクダは感じていたのだ。
結局、ツクダは文菜との心の距離が縮まっている感覚が掴めなかったのだ。
"土田さん(文菜)と自分との関係は、一方的に自分から好きになって、一方的に自分が思いを伝えたことから始まった。
きっと土田さんは、お情けでデートをしてくれて、付き合うのもイヤじゃないから付き合ってくれたんだろう。
土田さんは前の恋人との間でキスや初体験も済ませているから、どこか余裕があって、慣れた感じで。本当は男がリードしなきゃいけないのに、リードされてばっかの自分はすごくかっこ悪くて。
そんな自分のことなんて、きっと好きになってくれないんだろうな。二人でいて幸せなのは、自分だけなんだろうな。"
正直で優しいツクダはきっと、夜な夜なそんなことを考えながら過ごしていたのだろう。そう考えているうちに、ツクダは文菜との関係に耐えられなくなり、別れを告げたのだと思う。
《ベタな》ツクダのことだから、何度も文菜に「俺のこと好き?」とかっていう質問はしていると思う。文菜はその度に「好きだよ」と伝えたと思うのだけど、きっと言葉ではその距離は縮まらなかったのだろう。
そんな二人の距離が縮まっていない実感がある中で、恋愛関係を続けていくのが、正直で優しいツクダにとってはしんどいことだった。
文菜は、そんな優しいツクダとの恋愛を振り返って、
優しすぎる人と恋愛は相性が悪い気がする
恋愛なんてわがままな者同士が相手に迷惑をかけたりしながらでしか、育めないものだと思うから
と回想する。優しさだけでは成り立たない。恋愛はなんとも難しい。
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高校時代の恋人からは「遠距離を続ける自信がない」と言われて別れた。
ツクダとは「もっと好きになって欲しかった」と言われて別れた。
小林とは「文菜が邪魔」と言われて別れた。
これだけの経験からしても、「もう恋愛はこりごり」と思っても不思議ではない。
しかし、文菜はまた人を好きになる。
だけど好きになると知らなくてもよかったことを知ってしまう。だから、好きにならない人を好きになる。今の文菜はそう決めて、自分のことを好きで、優しいゆきお(成田凌)と付き合っている。
小林と別れてから、ゆきおと出会うまでには5年の空きがある。この5年の間に何があったのか、何が人と「まっすぐ」向き合えず、「考えすぎる」文菜を作ったのだろうか。
未来に歩みを進めるのだけが物語ではなく、過去を紐解いていくのも物語なのだということをまざまざと考えさせられた。

