土田文菜から目が離せない。
『冬のなんかさ、春のなんかね』の話である。
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文菜(杉咲花)は、人とまっすぐ向き合えない。それでいて、自分ともまっすぐ向き合えないでいる。このドラマは、そんな彼女の心の変容を描くドラマだ(と、個人的には思っている)。
今週配信された第4話では、そんな文菜がまだ「人とまっすぐ向き合えていた頃」の恋愛が描かれる。文菜は生まれつき人とまっすぐ向き合えないのではなく、色々な挫折と出会いを経て、今の「人とまっすぐ向き合えない」状態になったのだ。
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話は6年前。2019年の秋にまで遡る。
富山から上京し、大学4年生になった文菜は一つ前の恋愛を引きずっていた。そんな文菜はアロマンティックアセクシュアルの大学の友人エンちゃん(野内まる)に連れられて、クラブに行く。
そこのラウンジに、文菜の目をひく男がいた。それが小林二胡(柳俊太郎)だ。小林は、ラウンジのソファに座り、重低音のクラブミュージックに包まれながら本を読んでいた。
エンちゃんは、なぜか小林の生態に詳しい。小林が小説家であり、自分たちと同じ大学、同じ学年(留年)であることを文菜に伝える。それを聞いた文菜が興味津々なことを察すると「飲み行く?」と、飲みの場までセッティングしてくれた。
エンちゃんのはからいによって、文菜と小林は接触する。二人はエンちゃんを尻目に小説の話で盛り上がった。小林の小説の感想を文菜は伝え、小林は文菜に「小説を書いてみたら?」と勧める。
その日以降、二人は頻繁に会うことになる。たいていの場合、二人の間には「小説」があった。小林が文菜におすすめの小説を紹介したり、読んだ小説について意見を交わしたりした。
そして二人は、同じ年のクリスマスに付き合うことになった。
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文菜と小林の二人の物語は実にトントン拍子に進んでいく。
ちなみに、文菜と今の恋人のゆきお(成田凌)が付き合うまでのいきさつは、
"コインランドリーで声をかけてきたゆきおの職場(美容院)と家に文菜がついていき、その日のうちに付き合うことになった”
という「展開」とも言えない展開なので、ドラマ視聴者からすると「いくらなんでも文菜の都合の良いように物語が進み過ぎでは?」と受け取りたい気持ちになる。きっと、そう思う人は多いのではないだろうか。
こういった、主人公に都合よく物語が展開していくのを「ドラマだしね」と一段引いた立ち位置から眺めることはできる。しかし、個人的には「これこそがリアル」だと思うのだ。現実の恋愛も、それが成立するときはあれよあれよと歯車が噛み合い、トントン拍子に進んでいくものではないだろうか。
”地元に帰ってかつての同級生と飲んでいたら、たまたま席が近くになった人とマチアプ疲れの話題で盛り上がり、実はどうやら同業で、割と近くに住んでいることや休みの日が重なることが判明し、「じゃあ今度映画でも」といって何回か会っているうちに、気づいたら恋愛関係に発展していた。”
ということや
”原付バイクでスリップしてしまったとき、たまたま近くを通りかかった人が手助けをしてくれて、なんとその人と駅前の居酒屋で再会し、互いに常連であることが判明すると、一緒に飲むことが増えてきて、居酒屋以外でも会うようになったりしているうちに、恋愛関係に発展していた。”
とかっていうことは、現実世界にも起きていることだろう。いつだって『ラブストーリーは突然に』発生するものなのだ。
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そんな文菜と小林は、1年ちょっと付き合ったのちに別れることになる。
別れを切り出したのは小林だ。文菜が小林に別れたいと思った理由を尋ねると、小林は「わかんない」と言う。これといった理由は特にない、だけど、別れたい。
もしかしたら、文菜がとある文学賞で最優秀賞を受賞したことも別れたいと思った理由に含まれるのかもしれないし、自分の執筆が進まないのを文菜の存在のせいにしたいのかもしれないし、「自分には孤独が必要だ」と思っている節もある。
こういった色々な理由があるにはあるが、そのどれもが別れたい理由ではない。別れたいと思ったから、別れたい。それが小林の気持ちだ。
そんな小林の気持ちを、文菜は受け止める。そして、小林から告げられる様々な”理由ではない理由”に対して向き合い、一つ一つことばを返していく。文菜は、小林と関係を続ける余地があるのであれば、関係を続けたいと思っている。文菜にとって小林は、自分に小説を書く事を勧めてくれた存在でもあるのだ。
しかし、小林からいくつかの決定打を浴びせられる。その一つが、「文菜が邪魔」ということばだ。
「邪魔」ということばほど、人格を否定することばはないのではないか。もしかすると、このことばが今の文菜を作ったのかもしれない。
恋愛において、「重い」ということばがよく用いられるが、これを相手から言われると人との距離感がつかめなくなってしまう。自分が無意識にしていることが、相手にとっては「重い」のではないだろうか。一度でも他人に「重い」と言われると、恋愛関係のみならず、様々な対人関係の取り方がわからなくなってしまう。
そんな「重い」よりも「邪魔」の響きは心に重くのしかかってくる。
「重い」が係るのは「関わり方」だが、「邪魔」が係るのは「存在」だからだ。
「重い」と言われたら、関わり方を改善すればいいが、「邪魔」と言われたらその場から消えるよりほかない。自分の存在が邪魔なのだから関わり方をいくら変えても仕方がないのだ。
もう一つの決定打が、小林が文菜との共通の知人と寝たことだ。おそらく、小林は「別れたいという気持ちがあるだけでは別れられない」ことを自覚していたし、その「別れたい」という気持ちはどこか自分への甘えがあるということも自覚していた。そして、文菜はそのことを指摘することも想定していた。そして実際そうなった。文菜は小林に「それは甘えだよ」とまっすぐに指摘する。
ただ、小林は文菜と別れたい。別れないとダメな気がする。そのためには文菜に嫌われるしかない。だから、文菜以外の人と寝る必要があった。文菜はこの小林の行いを「最悪」と切り捨てる。
小林の思惑通り、この事実は文菜を失望させ、文菜は小林の前から立ち去る。この経験もまた、今の文菜に影響を与えているのかもしれない。
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文菜は、別れ話の冒頭で「なんでこうなっちゃったかなぁ」「好きだったのになぁ」とことばを絞り出す。
「好きだったのになぁ」と言いながら、このときの文菜はまだ小林のことが「好き」だった。しかし、小林の一言一言に向き合い、小林の心の中に深く侵入してしまったせいで「邪魔」ということばを浴びせられ、終いには小林の「最悪」の行いを知らされることになった。
こうなってしまうなら、初めから小林と向き合わず「そっかそっか、別れたくなっちゃったか、しょうがないよねー。元々私たちは無理があったんだよ」と言ってさえいれば、傷つくことも「好き」だった人を「最悪」と思うこともなかったのかもしれない。
そう考えると、文菜が人と「まっすぐ向き合わない」という選択を取っていることも納得できるし、「人とまっすぐ向き合うことがいいこと」とも言えなくなる。
頑なに「人とまっすぐ向き合わない」文菜にやきもきしていた気持ちの置き所がわからなくなった。

