最近また、阿川佐和子さんの名著『聞く力 心をひらく35のヒント』をオーディオブックで聴き返しました。

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僕がこの本を初めて読んだのは、発売されてすぐのタイミングだったはずなので、2012年ごろだったと記憶しています。

で、そこからオーディオブックでも何度か聴いているはずなので、今回できっと3〜4 回目ぐらいだと思います。

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この本を初めて読んだときは、インタビューなど人に話を聞かせてもらう仕事をする前で、「聞く」ということに対して、まだまだあまり意識していなかったタイミング。

そこからウェブメディアの取材記行為などを通して、自分もひとに話を聞かせてもらうという仕事を続けてきました。

そして、今はオンラインコミュニティの対話会や、Podcast番組、Voicyの対話回などで、一対一で話を聞かせてもらう機会なんかも増えて、その中でたくさんの失敗も重ねてきて「聞く」の重要性を痛感しています。

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で、そんな経験を経由したからなのか、初めて読んだときから10年以上が経過した今、「こんなにもたくさんの失敗談が書かれてあったっけ?」と衝撃を受けました。

この本の中には、各界の著名人にインタビューする阿川佐和子さんの失敗したエピソードが山ほど出てくるのですが、僕がしばらく読まなかったうちに本が書き換わってしまったのかな?と思うほど。

でも、当然そんなわけはなくて、発売された2012年当時から、そこに刻まれている文字の「情報」は一切変わらない。

だとすれば、この本を読んだり聴いたりする自分のほうが変わってしまったんだ、ということです。

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これは見方を変えれば、過去10年以上インタビューや対話会など、いろいろな形で人に話を聴くを実践してきた経験を通して、うまくいった話よりも、ミスした話のほうがグサグサと刺さるようになったってことなんですよね。

自らが失敗を重ねるにつれて「失敗談こそ宝物だ」と感じられるようになった。

逆に言えば、最初のころは、どうすればうまく人に話を聞けるのか、そのノウハウやテクニックのほうばかりに目を向けてしまっていて、阿川さんの失敗談やトラウマ、そこからの学びみたいな方にはまったく目が行っていなかった。なんなら、不要なエピソードだとさえ思っていた。

まったく同じ本を読んでいるのに、これは本当に不思議ですよね。

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でも今は、インタビューにおける痛恨のミスほど、「わかるー!」という心の声が、ついつい独り言として表に出てしまうんですよね。

ちなみに、これは完全に余談なのですが、AirPodsでオーディオブックで聴いていると、自ら独り言が出てしまったときには、自分の声を拾って、音声が小さくなるので、これがまた自分をハッとさせてくれる。

無意識に声が出ているぐらい反応したんだ、っていうことですから。この機能が搭載されてから、オーディオブックの聴き方がまた変わってきたなと思います。

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で、話をもとに戻すと、女性作家さん(という括りが許されるのかどうかはわからないですが)、女性でエッセイを書くのが上手な方々、阿川佐和子やジェーン・スーさんなどは自分のミスを正直に書いてくれるから、すごくありがたい。

しかも、一回ちゃんと凹むんですよね。ふて寝するような感じで。その後、そこからガバっと立ち上がる。

これは男性作家さんにはない視点だなあといつも思います。

男性の場合は、強がりやプライドが邪魔をして、ふて寝した時期がたとえあったとしても、ガッツリと削られてしまっている。

あたかもリングの上で、そのまま起き上がりました、みたいな書き方がされてしまっている場合がほとんどです。

でも女性のエッセイストの方々は、しっかりふて寝エピソードも盛り込んでくれる。なんならここに一番熱量がこもっている場合も多い。

自らの凹みを正直に、ときにユーモラスに描ける人には、読者が自分の姿を重ねやすいということなんだと思います。

で、自らが実践者になった後では、そのような実体験ほどグサグサと刺さるし、著者からしっかりと励まされ、寄り添ってもらえるように感じられるから不思議です。

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このような失敗エピソード部分に、聞き耳を立てるようになれるのもまた、ある意味では自己が成長した証なんだろうなあと思います。

最初のころは、自分自身が成功したい一心だから、成功のためのノウハウばかりを探してしまう。

でも、実践して傷ついていると、どうしたらこの失敗を防げるのか、という視点に一気に切り替わってくる。

たとえば、株式投資なんかも、わかりやすくそうだと感じます。

誰かの100倍銘柄の話を聴いてしまったら、それを自分も当てるためにはどうすればいいのか、そんなノウハウやテクニックばかりを本の中から探してしまう。

でも本当に学ぶべきは、そんな棚から牡丹餅のような一攫千金を獲得する方法じゃなくて、先人たちの失敗談を聴きながら、同じ轍を踏まないようにする方法です。

そして、多くの成功した投資家が「決して市場から撤退、退場しないこと」っていうけれど本当にそうで。

成功ノウハウばかり追いかける時期は、まだ自分自身が「何がわかっていないのかも、わかっていない状態」なのかもしれません。

言い換えれば、少しずつ少しずつ、そんなふうに自らの実践を通して、致命傷的な失敗を減らし、ちゃんと大きな波を待てるような状態にしておくことが、何よりも100倍銘柄を見つける秘訣だったりする。

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これは、相手の話を聴くというひとつの行為とってもそうなんだなあと、ものすごくハッとしました。

相手の話を聴けば聴くほど、「もっとこんなふうに聴けばよかった…!」と深く後悔をして、その手痛い失敗の経験から、他人の失敗談にも共感をし、強いシンパシーを感じて、なおかつそこからどうやって立ち上がったのか、その失敗から一体何を学んだのかが余計に気になる。

こればっかりは自分自身で実践してみないとわからないことだったなあと思います。

「同じ川には二度と入ることができない」というけれど、読書においてもそれは同様で、自分自身が素人のときには、その本にかかれている成功部分にばかりフォーカスしている状態。

ダニング=クルーガー効果で言うところの、まだまだ「バカの山」のてっぺんにいる時なんですよね。

そうじゃなくて、その本にかかれている失敗部分に対して深く共感するとき、ちゃんと絶望の谷にいて、著者と一緒に思いっきり絶望できる。

そして、そこから立ち上がる方法、同じミスをしないための方法を学ばせてもらうこともできる。そうすれば少しずつ這い上がって、徐々に「啓蒙の坂」を登り始めることができるわけです。

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このような多面的な表情を持つのが、名著の素晴らしい部分だなと思います。

2012年頃にこの本を読んだ僕も「素晴らしい本を読んだ!」と思っているし、そこから13年が経過して、様々な痛みを体験してきた2025年の今の自分も、「素晴らしい本を読み返した!」と思っているわけですから。

つまり、ちゃんとバカの山にいるひとにも、絶望の谷にいるひとにも刺さるように、各人の置かれている状況においてのハイライトだと感じられる一文や成功法則が丁寧に散りばめられている。

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であれば、僕も、もっともっと自らの失敗から何を学び経験したのか、ということを積極的にこのブログにも書いていきたいなあと思いました。

なにはともあれ、改めて本当に素晴らしい本だなあと思います。

この阿川佐和子さんの『聞く力』が売れてから、ビジネス本の聴くブームが始まったことは間違いない。

ゆえに、たぶん読んだことがあるひとも多いと思うけれど、そうやって過去10年ぐらい、ビジネスやプライベートの場面で「聴く」という姿勢を徹底してきたと感じている人ほど、ぜひ再び手にとってみて欲しいなあという作品です。

過去10年間の間で、真剣に取り組んできたひとほど、いま再読したときの驚きや新たな発見、そこからの学びはきっと尋常じゃないはずです。

「もう既に読んだことがある」と思っているひとにこそ、今日のこのブログを読んだこともなにかのご縁だと思ってオーディオブックなどで再読をオススメしたいと思います。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。