「自分の意見や考えを話すこと」

その意味を、自分の中に蓄積されたストックフレーズを話すことだと思っている人はかなり多い。

何を隠そう、僕自身もそうでした。

自分の中で既に完成された意見を、事前にたくさん用意しておいて、質問に合わせてその意見を自分の中から出し入れする感じ。

それが社会人に求められている所作なのだと。

だからこそ、10年以上毎日必死にブログを書き続け、自分の意見のストックを淡々と増やしてきました。

多くのひとは、そのような考えを書き出す時間さえも忙しくて取れないから、どこかで誰かが言っていた自分にとって納得感のあった意見を「自身のストックフレーズ」として多用しているように思います。

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ただ、そんなふうにみんなが用意したストックフレーズをそれぞれが意気揚々と語ってみても、誰ひとりとして「自分の言葉」で喋っていないなと感じるときが、過去に何度もありました。

そこに、強い違和感を感じてしまうのです。

喩えるなら、帰国子女の子が日本に戻ってきて、旧友たちの前で自信満々に「私の意見」だと思いながら話しているときに感じるあの違和感や、イラっとする感覚に非常によく似ています。

ほかのコミュニティに出入りして、違う価値観を手に入れ、その目新しさに自分自身が感化されたがゆえに、そこで語られていることをそのまま受け売りで話してしまっているようなイメージです。

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そして「対話」の場において一番厄介なものは、このストックフレーズだと思います。

なぜなら、ストックフレーズというのは必ず語気が強くなってしまうからです。

その言葉の力強さが、相手の心をパタっと閉ざしてしまう。

「これが私の正解だ!」という意見を脳内から引っ張り出してきて、それが自分の中で確信めいていることであればあるほど、人は自信満々に大きな声で言えてしまいますからね。

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以前、日経新聞のCMで「朝に読んだ記事が、今日の会議に早速活かせた」みたいなドヤっとするCMが東京の地下鉄内で繰り返し流れていましたが、そうやってどこかで目にした意見や情報を横流ししていくことが、自己の発言機会に求められていることだと思っているひとは、あまりに多いです。

もちろん、それが大切な場面もあるとは思います。

むしろ、一般的な社会の中ではそんなストックフレーズをペラペラと話せることが、評価の対象となる空間が9割だと言っても過言ではないのでしょう。

TEDみたいなプレゼン大会はその象徴だと思います。

でも僕は、もっともっと現在進行形で考えていることや、モヤモヤしていること、グルグルしていることを話すことができる空間が欲しいし、それがTEDのようなプレゼン大会と同じぐらい大事な場だと思っている。

それは「言葉になっていないものを言葉にしていく過程を他者と共有していく」ということです。

その際には時間がかかってもいいし、聞き取れないぐらい小さな声でも構わない。

もちろん支離滅裂だって構わないし、何も言葉が出てこなくて数十秒間完全にフリーズしたって構わない。

誰も急かさないし、うまく話せなくても決して責めないから、そうやって自分の中にゆっくりと立ちあがってく繊細な感覚を言葉にしてみて欲しいと切に願います。

そこから出てくる「なんでもない言葉」ほど、現代において貴重なものはないのだから。

「上手く話せないかも」「みんなの空気を遮ってしまうかも」という不安や恐れが、既に見知っているストックフレーズに立ち戻ろうとさせてしまう。

現代社会においては、この弊害があまりにも大きすぎます。

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さて、こういう話をすると、すぐに「本音を話すことが大事ですよね!」と言われてしまうのですが、本音とかそういう話でもありません。

むしろ、「私にとっての本音が一体何なのか」それが自分自身でもよくわからないからこそ、さらにそこから深ぼってみて欲しいのです。

「鬼が出るか蛇が出るか」これ以上先を掘り進めた先に何が待っているのか、自分にもよくわからない。

ただ、そうやって辿り着いた先に「私が探し求めていたものはコレだったんだ」と事後的に理解できる何かを見つけ出すことができるのは間違いなさそうという実感だけはある。

そのための時間や空間をつくっていきたいのです。

お互いに敬意を持ち合うことが、ものすごく大事。

繰り返しますが、言葉にならない言葉はすぐに強いストックフレーズによってかき消されてしまいますからね。

相手の言葉にゆっくりと耳を傾けること。そして私もまた、同じように誰かにゆっくりと聞いてもらうこと。その信頼関係をお互いに作り出していく。

このWasei Salonでは、そんな対話における循環をしっかりとつくり出していきたいです。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となったら幸いです。