最近、国家や会社など大きな組織が、国民や社員に求めていい必須のスキルはどこまでなのか、についてよく考えます。

たとえば、国家はこのコロナ禍のなかで「ひとりひとりが考えて行動してください」と当たり前のように通達してくるけれど、本当に、国民はひとりひとりが考えて行動しなければいけないのでしょうか。

それを、考えることが本来の国家の役割なのではないか。

そして、会社の現場でも似たようなことが起きてしまっているような気がします。

今日は、そんなことについて少しだけこのブログで考えてみたいと思います。

ーーー

思うに、国家の役割は、国民の健康で文化的な生活を保障すること。

財テク知識も、医療知識も、そして感染症対策の判断も、国民ひとりひとりがプロフェッショナル並に粛々と判断して勝手に行ってくれるのであれば、国は何もする必要がありません。

しかし、国民ひとりひとりにそのスキルを求めるのはどう考えても酷であり、そもそも不可能なこと。それこそ国民の多様性を奪いかねない。

だからこそ、国民は、国家という組織に対してその業務を委託しているわけですよね。

具体的には、行政権を与えるから、国民ひとりひとりの権利を守ってくれるようにと国家(地方自治体)と契約しているわけです。

ーーー

にも関わらず、国家が本来的に請け負う部分を、「ひとりひとりが考えて判断し、個人の責任で行動してください」と言い始めたら、それは国家が自分たちの存在意義を、自分たちで否定していることになる。

つまり、いま国民が当たり前のように国家から丸投げされてしまっているスキルや責任というのは、本来国民が負うべき負担ではないと思うのです。

ーー

そして、このような話は会社に置き換えてみても、全く同様のことが、いま様々な現場で起きていると思うのです。

本来、その道のプロフェッショナルに求めるような高度なスキルまで、現場に求めるようになってきている。

たとえば、社員同士のコミュケーションやマネジメントにおける「対話」のスキルなんかがそう。

最近のビジネスの現場では、カウンセラーやコーチングのプロが身につけるような高度な対話技術まで、一社員に要求してしまっている節があると思うのです。

ーーー

これは決して、「対話」スキル自体を否定しているわけではありません。

自分自身が「より良いコミュニケーションをしたい!スキルアップをしたい!」という目的のために、各人が自分の努力の範囲内で身につける分には全く構わない。むしろ大いに実践したほうがいいでしょう。

ただし、会社(組織)が社員全体にソレを要求してしまうことはどう考えても間違っている。

会社はむしろ、対話スキルなんか磨かなくたって、働ける現場をどうにかして提供しなければいけない。

ーーー

もし対話スキルだとわかりにくければ「肉体改造」で例えてみると、わかりやすいかもしれません。

仮に、ひとりの社員がプロアスリート並みに筋トレしていて、その社員の営業の成績がいいからという理由で、「あなたも、明日からあの社員と同じように筋トレしてください。ムキムキの体で精神・身体ともに健康体でなければ、この会社ではもう働けません」と突然言われたら、どう考えてもおかしな話だなと思うはずです。

にも関わらず、それが抽象的な「対話」スキルのような場合には、当たり前のように、そして暗黙の了解のように社員に求めてくる。

それが今ビジネスの各現場で起きてしまっているように感じるのです。

ーーー

このように国家や行政、企業などが本来担うべき役割を、国民や社員に求めてくる場合には、明確に反論する必要があると思います。

それは、組織側が請け負う責任であり、それを現場が必死で身につけないと立ち行かなくなっている場合は、そもそも組織の怠慢か、もしくは組織自体が古びてしまい完全に機能不全を起こしてしまっている証拠でもあるのだから。

ーーー

これは大事なことなので繰り返しますが、個人が自分の成長や発展を望み、より良い生活と豊かな人生を手に入れるために、スキルの向上をしていく分には全く問題ないと思います。

むしろ、どんどん国家や会社なんか置き去りにして、自己が望む限り修練に励んだほうがいい。

しかし一方で、それを身につけているひとたちがうまくいっているからという理由で、そんなプロフェッショナルと同等のスキルや判断を現場に求めてくる国家や会社の要求には、明確にノーを突きつけたほうがいい。

その要求に応えられないのは、決してあなたが悪いわけではないのだから。そのことで悩まされてしまう状況は、どう考えてもおかしいり

ーーー

ここ1〜2年で、そんなことに悩んでいる方々をよく目にしてきたので、今日のブログにも改めて書いてみました。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考になったら嬉しいです。