地方の町おこしのひとつとして、公共施設の内装や商品のパッケージのデザインを今っぽくして、お客さんを呼び込もうとする施策があります。

SNSが普及して、個人がメディア化して宣伝してくれるようになったから、ここ10年間で本当に当たり前の施策になりました。(つまり、予算がおりやすくなった)

そして、これらのデザイン関連の施策というのは、最初の数年は必ずうまくいきます。

まずデザインを変えると、何より地元のひとたちに喜んでもらえる。「やった、自分たちの地元もあかぬけた!」と。

そして実際にお客様にアンケートを取ると、お客様も喜んで購入してくれている様子が見て取れる。

今まで自分たちの地元にはなかった「東京」や「京都」に対するような反応が、自分たちの町でも起きていると感動するわけです。

そして、数字や売上も順調に伸びていきます。完全に「三方良し」の状態が訪れて、直近のKPIはすべて達成されていきます。

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でも、ここには大きな落とし穴が存在している。

その状態は、たった数年で完全に崩壊してしまうということです。

なぜなら、他の地域がデザインを良くしてKPIを達成したとわかれば、そこは地方行政の徹底した横並び前例主義ですから「すぐにうちの地域も同じ事務所に発注せよ!」という命令が出て、日本中に似たようなデザインが溢れかえります。

そうじゃなくても、他の地域で似たようなデザインを真似する事務所が、雨後の筍のように現れて一斉に似たようなデザインとなってくる。

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このようにデザインによって集まってきたお客さんは、また新しい今っぽいデザインが出てきたら、その目新しいデザインに惹き付けられて他の地域に流れていきます。

それは、価格で呼び込んだお客さんが、さらに安い価格を提示した他のお店に流れていってしまうのとまったく同じこと。

具体的には、今から10年ほど前、初期のころの「インスタ映え」を意識したような何の変哲もないブルックリン風のカフェ(コミュニティスペース)を、いまローカルで見つけたら、逆にダサいと感じるようになってきているように。

当時はそれがデザイン的に最先端であり、みんな一斉に写真を撮ってSNSにあげていたにも関わらず、です。

デザインの力だけに頼ると、それと全く同様の現象がこれから10年先の未来に、自分たちの地域でも起こることが既に確定してしまっているわけです。

その未来からは決して逃れることはできません。

つまり、これからの数年間は多少の売上があがったとしても、それはまた次の10年間のためのデザインリニューアル費用に消えていくだけなのです。

この矛盾に気がつかないと、いつまで経っても儲け続けるのは、東京のオシャレなデザイン事務所だけということになります。

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では、デザインを良くして、地方にお客さんを呼び込むことは完全に誤りなのでしょうか。

いや、そんなことはないと思います。内装やデザインは、こっちを向いてもらうための(一度現地に足を運んでもらうための)非常に効果的な手法だと思います。

そして、現地に来てもらって初めて、ゆっくりと自分たちの口で説明するチャンスが与えられる。

オンライン上で、1時間しっかりと自分たちの話を聴いてもらうことは難しくても、一度現地に来てもらえれば、1時間ゆっくりと自分たちの話を聞いてもらう機会は容易につくることができます。

大事なことは、その説明するたった一度のチャンスに一体何を説明するのか、です。

デザインに惹き付けられて足を運んだひとたちに対し、そのタイミングで自分たちの地域の歴史や魅力、この地域特有のコミュニティの魅力を理解してもらって、そのひとにとっての唯一無二の地域にならなければいけない。

そうやってフックを作っておかないと、またスルッと抜けていくだけです。せっかく初めて来てくれても二度目の訪問は絶対にありえません。

だって、そのひとたちが目的としているのは、自分のSNS上でその土地のイケてるクラフトビールや地酒、オシャレな内装やパッケージの写真をアップすることだけなのですから。

この説明をするための魅力がまったく言語化されていない状態で、デザインだけ良くして人々を一生懸命呼び込んでみたところで、海に向かって撒き餌だけしておきながら、釣り竿や釣り針を用意していないのと同じことです。

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この点たとえば、移住者も観光客も増えている島根県海士町や島根県の石見銀山は、それが非常に上手だなあと感じます。

町おこしの順番が完全に理に適っている。

最所から「Entô」や「他郷阿部家」のような魅力あふれる宿泊施設をつくっても、一度来たらおしまいになってしまう。でも両地域ともに、その地域を訪れた人たちに語ることができる「ストーリー」を丁寧に整理したうえで、そのような宿泊施設を用意している。

だからこそ、その物語に魅了されて、現地の人とのつながりも生まれて、何度も再来する常連客の方々が増えているわけですよね。

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古くは「古事記」や「日本書紀」などの書物、律令制度を整えてから中国風建築の神社仏閣を整えないと、中国から単にバカにされるだけだったように。

明治維新後の日本でも「武士道」や「茶の本」、「代表的日本人」など日本人の精神性と哲学を外国語で言語化し、法治国家としての制度を整えてからでないと「鹿鳴館」だけをつくってみたところで、欧米からバカにされてカモにされて終わりだったように。

必要なことは、この町は他の地域とは違い、唯一無二だと思われるその地域のストーリー(建国神話)と、地元の人々の魅力を知ってもらい繋がるための施策を先に準備しておくことだと思います。

コロナも少しずつ落ち着いてきて、海外からインバウンドの観光客も戻ってくると言われているこのタイミングで、ローカルのお仕事に携わっているひとたちにとって、今日のお話が何かしらの参考となったら幸いです。