「これからの”働く”を考える」をテーマに活動するWasei Salonのインタビュー企画「わたしの一歩」では、サロンメンバーが踏み出すさまざまな一歩を深ぼります。
第3弾の今回のお相手は、北海道の札幌にて専門商社の財務部で働く竹田風子さんです。
「相手が求めることに応えてばかりで、自分のしたいことからずっと目を背けてきた」と語るふうこさんは、どのように自分を取り戻していったのか、お話を伺いました。
竹田 風子(たけだ ふうこ)
北海道出身、札幌在住。農業機器を扱う中小企業の財務部で働く。社外では市民団体「クスろ 」やポッドキャスト「ブックブックこんにちは 」のメンバー、札幌・北18条の書店「シーソーブックス 」のイベント配信スタッフとしても活動している。
とげとげした思いを抱きながら働いていた
海外から輸入した機械を販売している会社で働いていますが、特別なきっかけはないですね。就職活動ではやりたいことも向いていることも見つからなかったので。
入社してからも働くことに対して、ずっと受け身の姿勢でした。今の部署に来てからはずいぶんと楽しくなったのですが、それまでは「これから人生楽しくなっていくのかな」と不安ばかり感じていましたね。
ーー前の部署はどんな環境だったんですか?
北海道の苫小牧という地域で、通関業務に携わってました。その部署では1人の先輩と常に一緒に仕事をする環境だったのですが、相性が悪くて、怒られてばかりでした。
何をするにも先輩の確認が必要なのに、相談しようとしたら「忙しいから話しかけないで」と言われることもあって、どうしたらいいんだろうって。
だから、当時は警戒心がすごくて、ずっと包丁を構えながら働いているイメージでしたね。言葉に出すことはなくてもとげとげした思いを胸に秘めてました。札幌に転勤するまで、本当にしんどかったです。
ーー札幌には、いつ頃来られたんですか?
2020年の11月ですね。財務部に異動になってからは、人間関係に苦しむことはなかったです。
ただ、自己肯定感が下がってしまっていて「みんなの役に立ってるのかな」「財務部でわたしの存在価値ってあるのかな」といった気持ちは変わらずに感じていました。
働くことに真剣に向き合ってみたい
周りのことを信用できずに敵のように感じてしまっていて、なかなか悩みは尽きませんでした。ただ、今では財務部で楽しく働かせてもらってます。
ーーおぉ、そうなんですね。何がきっかけで良くなっていったんですか?
大きな転機は半年前にWasei Salonに入会したことかもしれません。それまでは「働くこと=お金をもらうこと」だったので、周囲に合わせて我慢をすることが当たり前でした。
どう働きたいのかを考えたこともなかった自分が、今では生きることと働くことは同じくらい大切なことだと思えているので不思議ですよね。
ーーWasei Salonにはどういう経緯で入られたのですか?
サロンメンバーの三浦希さんがきっかけです。でも、直接会ったことはないんです。服や人への愛ある発言がすごく良くて、Twitterでフォローして拝見していました。
それで、三浦さんがゲストとして働き方について話す「働く座談会「関わる働き方を考えよう」 ITONAMI × Wasei Salon 」というイベントに参加して、「周りの人を大切にしてたら、自然と仕事が増えていった」という話を聞いたんです。こんなに優しい世界線があるのかとびっくりしました。
ただ、驚き以上に「わたしも働くことに真剣に向き合ってみたい」という興味が沸いてきたんですよね。ビビっときた感覚を逃してはいけない。そう感じたので、そのまま入会しました。
ーーWasei Salonではどんな関わり方をされてきたんですか?
イベントへの参加やブログ投稿、部活動にも関わってきました。
初めて参加したのは伊藤守さんの『こころの対話 25のルール 』が題材の読書会でした。参加する前は、本を読んで「わたしって本当に人の話を聞いていないんだ」と感じていたのですが、みなさんは本の内容を鵜呑みにするだけじゃなく、色んな角度から読み、自分の意見を持っていました。
本の捉え方、もっと言えば、世界の捉え方の違いが面白くて、読書会が終わる頃には「もっと働くことや生きることについて、みなさんと考えていきたい」と自然と感じていましたね。
当時はあまりにも無思考なまま働いていたので、Wasei Salonでの活動を通じて、もっと自分が求めることに向き合う覚悟が持てたと思います。
今のわたしなら職場に必要な存在だと思える
もう、沢山の変化がありました。社内での自己肯定感が高まったことも、わたしにとっては大きな変化でした。
半年ほど前、会社にいてもずっと不安で転職を考えていたんです。サロンメンバーのコーチングを受けてみたところ「役に立っているのか不安なら、それさえも聞いてみればいいんじゃない?」と背中を押してもらえたので、勇気を振り絞って先輩にそのままの気持ちを話してみました。
そうすると「そんなこと考えてたんだ」と先輩も親身になって話を聞いてくれて、関係性が変わったんです。今では何でも相談できますし「わたしにできることを、もっとやっていこう!」と仕事に積極的に取り組めるようになりました。
ーー具体的にどんなことをされたんですか?
わたしが勤めている会社は、決して今どきな組織ではなく、なかなかに古い体制です。未だにFAXでのやり取りが多いので忙しくなると紙の書類が積み重なったり、FAXが届いたかどうかの確認や送り直しに手間取ったり、良くない慣習が残っていました。
だから、FAXを用いた紙での申請を減らすため、電子申請を導入したんです。社内にあるシステムを活かして、書類の内容や承認ルートを設け、電子申請の仕組みを整えました。
周りからも「すごい楽になった」と言ってもらえて嬉しかったです。そうやってできることを積み重ねていけたので、今のわたしは財務部に必要な存在だって心から思うことができますね。
自分を取り戻せたから居場所ができた
1年半前に札幌に来たときはコロナも相まって不安しか感じていなかったのに、今ではこれからの人生が楽しみだって心底思えていますね。
ーーそれは仕事の時間が充実しているから?
仕事の影響も大きいけれど、何より自立できた実感があるからだと思います。
もともと友人や恋人といると相手がしたいことを中心に考えることが多かったんですが、今では自分が何をしたいのかに関心を持ち、優先できるようになりました。
ーーなぜ、自分を優先できるようになったんですか?
自立している人に囲まれた環境にいるからかもしれません。Wasei Salonに入った頃は「サロンメンバーのみなさんに恥じないように自立したい」と思っていたことを覚えています。
他人に優しく、自分にはストイック。そんな方々と話す機会が増えると、自然と「わたしって何がしたいんだろう?」と自分の声を聞くことができ、徐々に自分を取り戻せた感覚があるんです。
ーー自分を取り戻せたことで、大きく変わったことはありますか?
本当の意味で居場所ができました。
自分がなくて相手に合わせてばかりのときは、「話を聞いて”もらっている”」「求められることを”してあげる”」みたいに周りの人との関係が対等じゃなかったと思うんです。
でも、自分を取り戻した後は、個人と個人で接している感覚なんです。その状態になってからは、役に立っているか、ここに居てもいいのかなどは気にならなくなりました。
ーーすごく大きな変化ですね。
ありがたいですよね。居場所ができてからは、仕事でもWasei Salonでも自分のやりたいことがどんどん沸いてきているんです。
人に面白く読んでもらえるような文章を書きたいという思いからWasei Salon内で「書く部」を企画したり、お客さんと近い距離で働きたい気持ちに気づいてからは地方での仕事も探したり、色々と動き始めることができました。
もっと人と共に生きている実感を
相手の顔が見える働き方をしたいですね。もともと誰とでも話したがるような子供で、今も人が好きな自覚があるので、もっと人と生きている実感をもっていたいんです。
札幌にいると街を歩いていても知らない人ばかりなことに違和感があります。会社の仕事も財務部にいるのでお客さんとの距離も遠く、顔を合わせる機会は滅多にありません。
だから、札幌のような大きな街ではなく、町で暮らす人たちと顔を合わせられるような地域に根ざした会社で働いてみたいです。
ーー転職を考えられているんですか?
そうですね、リペリエンスという会社への転職する準備を進めています。地域人事という職種で、人口約4500人の北海道の浦幌という町での採用支援を行う予定です。
町が面白いことと社長の人柄に惹かれて、その会社で働きたいなと思いました。
ーー人柄のどういう部分に惹かれたんですか?
社内で上下関係をつくるよりも、なんでも言い合える心理的安全性を大事にしていること。幸せな暮らしが、お金を稼ぐことの先にあること。
Wasei Salonを通じて大事にしたいと気づけたことを、社長も大切にされていました。
ーー次の仕事は働き方がかなり変わりそうですね。
これからの暮らしが合うかはまだわかりませんが(笑)そんなことも含めて、楽しみにしています。
「わたしの一歩」を踏み出すときに触れたいもの
ーー本や空間、音楽など、一歩踏み出すときに触れたくなるものはありますか?
転職を考えていたときに背中を押してくれた『火を焚きなさい / 山尾三省』ですかね。サロンメンバーの方が薦めてくれた本です。
「ふうこさんの力強さから、この本の標題にもなっている『火を焚きなさい』という詩を連想しました。きっとふうこさんのその熱量から勇気や元気をもらう人たちが、未来にたくさんいらっしゃるんじゃないかな」と言ってくれたのも嬉しかったですね。
ーーこの本を読んでいかがでしたか?
「こんなに声に出したい日本語はない」と思うくらいピンとくる本でした。手にもしっくり馴染み、装丁も落ち着き、心から気に入りました。
本を読んでいた当時は「走り出したい!」という気持ちで溢れていたのですが、この詩集では静かに「火を焚きなさい」という文章が続いていました。読み進めることで、勢いで走り出しそうになるのをいったん抑えながらも、淡々と心の中に火を焚こうという気持ちになったというか......
いつの間にか、声に出して読みながら部屋を歩いていて「今、私は挑戦したいんだな」という気持ちを確かめ直すことができました。
ーー北海道の浦幌での挑戦。ブログを楽しみにしていますね。
はい。ありがとうございました。
編集後記
「こうして場所が居場所になっていくんだ」
お話を伺って、真っ先に感じたことでした。
学校や会社、家、地域など、関わりのある場所は誰にでも沢山あるはず。しかし、ここに居てもいいと安心できる場所は限られてきます。その理由は、その場所にいる人たちと、1人の人間として真正面に向き合う姿勢が問われるから。
ふうこさんはWasei Salonという場所で出会った人と向き合うことで、自分を見つめ、肯定し、挑戦を積み重ねていきました。その過程を経たからこそ、Wasei Salonが場所ではなく居場所になっていった。そして、居場所で培った勇気が会社にも波及し、財務部も居場所になる変化が生まれたのではないでしょうか。
この記事が、自分と向き合うことで今いる環境を変えていきたい人に届くことを願っています。
執筆:張本 舜奎
写真:長田 涼