今年の9月頃に放送されていた、三越伊勢丹が取材されていた「カンブリア宮殿」を見ました。


三越伊勢丹ホールディングスは今年、過去最高の収益を記録しているそうです。

そして、かつて「衰退産業」と言われていた百貨店ビジネスの見事なV字回復の背景には、徹底的なデジタル戦略がある、と。

じゃあ、それが何かと言えば、最近よく語られるように「MIカード」の存在です。

MIカードは伊勢丹利用者なら絶対につくらないと損のクレジットカードであって、昔はただただ割引でオトクになるカードでしたが、今はここに「体験価値」も付加されているらしいです。

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たとえば、年間300万円以上購入者限定ラウンジに入ることができたり、一般の客は入れないような個室での接客を行い、その中で一千万円を超える商品を提供していたりもするのだとか。

もちろん、もっと一般層に向けたサービスもあって、人気のワインの催事にも、1日前から入れたりもするらしいです。そこで、普通では手に入らないワイナリーのワインが手に入ってしまう。

で、僕がおもしろいなと思ったのは、そんなMIカードを通じて得られる顧客データの活用の仕方です。

今の三越伊勢丹は「マスから個へ」をスローガンに、顧客の購買履歴を緻密に分析することで、潜在的な富裕層顧客を特定し、最適なアプローチを行っているらしいんですよね。

つまり、お店に来る前から誰が自分たちにとっての重要顧客になり得るのかが、データによって明らかになっていて売り場ごとに最適化されているということです。

伝統的な「8割の売上を、2割の顧客が生む」というパレートの法則に基づき、その2割の顧客により焦点を当てている。

そして、彼らの購入金額を増やすための企画やイベント、催事や体験価値を提供する戦略が見事に当たっているようでした。

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これを受けて、作家の村上龍さんは番組の編集後記で皮肉めいたように「上質な客を求め、その数は増えていく」と書かれていましたが、本当にそうで。

いまの時代にはこんなことが可能となってしまいました。

一億総中流、つまり「8割の」人々を相手にするよりも、富裕層を囲い込んだ方が圧倒的に効率的。近年話題のVIP席の問題も、まさにこの文脈ですよね。

その2割の富裕層に優先して嗜好品を買ってもらったほうが話が早いということになる。

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しかし、ここで新たな課題もうまれてくると思います。

「とはいえ、もう全部揃っている。体験にも十分満足している。」それでもその富裕層の顧客に対して財布の紐を開いてもらうためには、一体どうすればいいのか。

それはきっと、資産性が上がることが確実なものを手渡していくということですよね。

価格が上がるものを、彼らに優先的に分配する。それが一番Win-Winの関係性をつくれるから。

東京都心のマンションや高級車、ウイスキーやワイン、エルメスやロレックス何かを筆頭に、ありとあらゆる商品が、きっと今後そうなっていく。

浪費には限界があるけれど、浪費した結果として投資になるようなものには、限界はない。

このような話は、これまでは一部富裕層だけに限られていた話であっても、これからはもっと面で刺しにいけるようになってきたわけですよね。

DXが進むことによって、その発掘がより一層簡単になって、その面積が広く捉えられるようになっていくわけです。

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ブロックチェーンじゃなくても、このあたりのデータは顧客情報として。いくらでも取れるのが現代。

また、社会の空気の変化によって「ご贔屓のお客様を、優先しても当然だろう」という雰囲気にも変わってきた。

そうやって、相手の持っている財力に合わせて、販売する「物自体」を変えるということを行うことが、倫理的にも全く問題なくなりました。

これは本当に大きな変化だなと思います。

上顧客に先に渡し、最後の最後にはメルカリなどのフリマアプリまで流れて、末端にババを弾かせるというような構造が、DXやAIの導入によっていとも簡単に行えるようになってきたということだと思います。

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で、今日のような話を受けて、よくよく考えてみれば、戦後の一億総中流時代は、歴史的にはものすごく例外的な時期だっただけなのかもしれません。

たまたま、メディア構造や、社会構造的にそうすることが一番効率が良かったという時代が戦後に少しだけ長く続いただけ。

この不均衡の是正を行うことは、もう暫くのあいだは不可能なのだと思います。むしろ、より一層加速していくはず。

生産性や効率を求めれば求めるほど、「2割」の客にアプローチすることが正解であり、そのひとたちの資産を間接的に増やし、またそのひとたちに浪費をしてもらう。

そんな循環と構造を作り出すことが、どう考えても合理的で資本主義という仕組みがそれを強化していく。

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繰り返しますが、今まではそれを人間側で行っていて全体に撒き餌をするしかなかったのが、今はそれを部分最適できるようになったということです。

「資本主義 × DX × AI」の威力みたいなものは、まさにここにあるんだろうなと思います。

そして、潜在的な人々も含めて、上顧客に持続可能な状態をつくるために、資産になっていくものを優先的にばらまくという流れ。

今のトークンエコノミーの向かっている先も、その最たる例だと思います。

富は富によって、掛け算や複利で、指数関数的に増えていく。インフレ時代にはなおさらのことだと思います。

当然、どこかでもちろん逆回転が始まる。そして、そのときは自己責任で突き放すわけです。

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で、僕が大事だなと思うのは、世界がこのような方向に向かうとき、どうやってコミュニティ単位において、その格差を是正をしていくのかということだと思います。

しかも、この是正に関しては「やる・やらない」は完全に自由。やらなくてもいいし、やらないほうがむしろ喜ばれる。同じ場所にいれるな!となりますからね。

たとえば、伊勢丹の300万円以上のラウンジに、あなた達のおかげで、ここにシングルファミリーの託児所をつくれるようになりました、と言ってみたところで、絶対に反対に合う。

そんな中、キンコン西野さんなんかは、あえて「シングルファミリー」と「子だくさんファミリー」の応援シートのようなものを自分たちの舞台の客席につくって、均衡をはかろうとしているのは、本当に素晴らしいことだなあと思います。

西野さんの場合においては、それを良しとするような富裕層との関係性を日々構築し、そのメッセージを繰り返し発信しているから、為せる技。

でも、基本的には仕事を増やすだけだし、本来は利益相反というか、やらないほうが喜ばれることは間違いない。西野さんのやり方も、かなり稀有な例だと思います。

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これからは、コミュニティごとの富の再分配のあり方が、問われる時代だと僕は思っています。

本来は、それを大企業が、日本では行っていたはず。具体的には、国としては資本主義、企業内では社会主義という仕組みが構築されていて、だからこそうまくいっていた。

ただ、現在は大企業側がもう完全に機能していない。国家への期待も無理。

さあ、どうしたもんか、ということです。

ここは、本当にわからない。わからないから考えていきたいなあと思います。

ドンドン格差は広がるばかり。でも本来の中間共同体の役割なんかも、きっとここにある。

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で、僕は、以前も書いたように、全員を「粗茶」で歓待する関係性を大事にしたいと思っています。



Wasei Salonも、比較的余裕のある方々からのドネーション形式によって運営されています。一部の余裕のあるメンバーさんが、会費以上の金額を毎月支払ってくださっているからこそ、まわっているような仕組みです。これは本当に、ありがたい限りです。


コミュニティに集まる方々と、どんな世界観を一緒につくり出していきたいのか。

そのメッセージの発信をし続けて、その「物語」から改めてつくり直して行く必要があるんだろうなあと思います。もはや従来的な倫理観なんて、全く通用しない世の中になってきているわけですから。

本当につくりたい人間関係や、作りたいコミュニティを掲げ、少しでも世界全体とは異なる論理で駆動するコミュニティをつくりだしていきたいし、そのための具体的な仕組みを考えていくことが急務なんだろうなあと思う次第です。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。