先日、Wasei Salonのタイムラインにも書きましたが、Gmailのアプリで、いま自分が受け取っているメルマガやプロモーションメールを一覧で確認し、その場で「登録解除」できるようになったようです。

この機能を、実際に使ってみて、なんだか本当に驚きました。

あのクソ面倒くさかったメルマガの解除手続きが、ワンタップで完結してしまう。

解除ページをわざわざ探して、ログインを求められて、やっとたどり着いたかと思えば、パスワードを忘れていて、再設定。ようやくたどり着いたページで「本当に解除しますか?」と何度も引き止められる、あの一連の手続きがマルっと消えたわけです。

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そして、このあまりに便利な機能を使いながら、なんだかふと恐ろしくもなりました。

これが可能だということは、今後は、ありとあらゆる関係性を断ち切る機能が、このワンタップになっていくはずですから。

就職先だろうとなんだろうと、ワンタップで関係性を合法的に、かつ波風立てることなくAIが断ち切ってくれるようになる。

もう退職代行サービスのようなものさえ使う必要がない。

もちろん公的な手続きに限らず、離婚や家族との絶縁でさえ、きっと今後はAIが全部ワンタップ、いや、一言スマホに対してささやくだけで、全部やってくれる世界線が到来するはずです。

なんだかほんとうに『世にも奇妙な物語』みたい世界だなあと。

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ただ、今日書きたいのはその先の話です。

改めて考えてみたのは、そもそも、あの「面倒くささ」って一体何だったんだろうと。

僕らはずっと、あれを不具合のようなものだと思ってきました。

解除させたくない企業側の姑息な引き止め工作であり、この世からさっさと消えるべき「悪しき摩擦」だと。

実際、半分はそのとおりだと思います。すぐに撲滅されるべき、悪しき慣習。

でも残りの半分について、僕はどうやら大きな勘違いをしていたようです。

あの面倒くささは、バグではなく、ある種の仕様だったのではないかと。

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考えてみれば、人間関係って、案外「続けたいから、続いていた」わけではないですよね。

メルマガなら「解除ページを探すのが面倒だから、まあいいか」。

会社なら「上司に退職願を言い出すのが嫌だな。引き止められるのが面倒だな」と思いながら、ズルズルと同じ会社に留まっているひとが大半なはず。

そうやってが関係性をダラダラ引き伸ばしてしまうことは批判されがちな部分でもあるのだけれども、一方で、それこそが人間同士の関係性の歯止めでもあったんじゃないか。

つまり、関係性を維持していたものの一部というか、実はその大半というのは、積極的な愛情でも忠誠心でも、あたたかな信頼でもなく、ものすごく単純に「退出コスト」だったんじゃないかと思ったんです。

やめられるならやめたいけど、やめるのがだいぶ面倒だから、ダラダラと続いてしまっている。

自分から切り出すのが億劫だから、現状維持でつながってしまっているというふうに。

なんだかほんとうに身も蓋もない話ですが、この面倒くささこそが、実は人間社会の接着剤の役割を果たしてきたんだと、ものすごくハッとしました。

世の中の大半の夫婦なんて、ほんとうにそうやって、ただお互いに面倒と惰性で「仮面夫婦」を続けているのが実情だと思います。

僕らのつながりの少なくない部分は、この退出コストによって担保されてきたのだと。

でも、Gmailの新機能を筆頭にAIは、その「退出コスト」をほぼゼロにしようとしているわけですよね。

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さらに、これから、生成AIやエージェント機能が本格的に加わっていきます。

そうなると、もう「解除ボタンを押す」ことすら必要なくなるはずです。「この会社、もう辞めたい」「この関係性、全部解除しておいて」と頼むだけ。

「この人とは、今後連絡を取りたくない」とスマホに一言つぶやけば、AIが意図を完全に読み取り、今のClaude Codeの自動モードのようなものに移行して、必要な文章を勝手に書き、必要な手続きを調べて、各方面に必要な連絡をして、面倒な相手とのやり取りまで全部を代行してくれるようになるというような。

そして、相手にも、それは決してバレない。

相手は、丁寧に最後まで連絡をとってくれたと感じてしまうはずです。

その結果、「意思表示」と「関係解消」のあいだの距離が、限りなくゼロになるということです。

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そこで思い出した話が、以前、このブログで紹介した映画『マイケル』の話。

あの映画のなかで、大富豪になったマイケル・ジャクソンが父親との関係を自分で処理せず、専門家チームに「なんとかして欲しい」と託し、最終的にFAX一枚によって合法的に距離を取った、あの場面をご紹介しました。

参照:AIは、あまりに合法的に僕らを救いすぎてしまう。

そんなかつて成功者だけが持てた専門家チームが、万人の手元にAIとしてやってくる。

そして繰り返しますが、そのこと自体は間違いなく圧倒的な「救済」です。

不当な関係、逃げられなかった場所、言い出せなかった別れから、多くの人が救われていく。

それ自体は、心から歓迎すべきことだと、今でも本気で思っています。

でも、その救済が社会の隅々まで行き渡ったとき、僕らの目の前には、まったく新しい問いが立ち上がってくるはずなんです。

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それは、「こんなに簡単に切れるのに、なぜあなたは、その関係を続けているのですか?」という問いです。

これまでは、この問いに自分から答える必要がありませんでした。

たとえば、ある関係が10年続いていたとしても、本当に一緒にいたかったから続いたのか、それとも、やめるのがただ面倒なだけだったから続いただけなのか。

それは本人にも、外からも、実は判別がつかなかった。

惰性と愛着は、いつも混ざり合ったまま区別されずに済んできたわけです。

ところが、今のAIエージェントのようなものが登場して、その退出コスト、断ち切る労力がゼロになると、この混ざりものが一気に分離され始めてしまいます。

そして、面倒だから続いていたような関係性は一気に世の中から消えていく。そして、それでも残った関係性だけが、あとに残る。

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このような話を考えるたびに、僕がつい思い出してしまうのは、ゼクシィのキャッチコピー『結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私はあなたと結婚したいのです』というあの有名なコピー。

また、以前書いた以下のブログとも、ダイレクトにつながる話だと思っています。

参照:やめてもいいのに、やめなかった年月だけが、信頼になる。 

AI時代は、「儲かるから」「仕事だから」「義務だから」続けざるを得ないことよりも、いつでもやめられる、にも関わらず、続いていることのほうに、人はその人の強くて確固たる信念を見るようになる、という話です。

このブログを書いた当時は、ここまで深いことを考えていたわけではありません。

でも今回のGmailの一件で、この「にも関わらず」の価値は、ますますこれからAIによって何倍にも拡張されていくのだと確信しました。

自由に去れることがAIで保証されているからこそ、自由に残ることに、初めて本当の意味が生まれるからです。

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だからこれからの関係性は、「継続」ではなく「再選択」と呼ぶべきものに変わっていくのだと思います。

すべての関係において、Gmailのような登録解除ボタンがついている世界線で、退出コストが限りなくゼロに近づく中、それでも、今日も解除しなかった。

明日も解除しなかった。一年後も解除しなかった。

それはもう、単なる従来の「継続」ではないはずです。

「今日も、あなたとの関係を選び直した」という、毎日の小さな意思表示、そんな約束の積み重ねになっていく。

そしてちゃんと白状すると、この話は僕にとって、まったく他人事ではありません。

このWasei Salonは、月額制のコミュニティです。月額制ということは、メンバーのみなさんの画面の横には、いつだって登録解除ボタンがついているということなんです。

引き止める仕組みも、違約金なんかも発生しない。

それでも、今月も残ってくれた人たちと一緒に、この場は続いてきました。それが、いかにすごいことで、ありがたいことなのか。

実際、ほんとうに何事もなかったように、サラッと去っていく人もかなり多かったですからね。そして、その去り方自体は、一切否定できることでもなんでもない。

その退出の自由は、いつだって加入者側のほうにあるわけです。

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あと、このブログの毎日更新なんかも、まったく同じです。

読者のみなさんには毎日、「読まない自由」があります。AIに要約させる自由もある。

にも関わらず、今日もこうして原文を読みに来てくださっている。VoicyやSubstackでも、フォローを解除せずに、毎日聴いたり読んだりしてくれているひとがいる。

13年間、僕はそのみなさんの「再選択」によってずっと支えられて、今も書き続けることができているわけです。でも、今回その重要性を改めて思い知らされました。

AIが関係を簡単に断ち切れるようになればなるほど、皮肉なことに、人間関係の本当の価値はむしろ、この「続く」という部分にこそ、くっきりと見えやすくなってくるわけです。

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すべての関係に「登録解除ボタン」がついた世界で、それでも解除しなかった関係だけが、これからの本当の価値ある関係になっていくのだと思います。

だとしたら、どうかブチッと断ち切ってしまう前に、いったん一晩寝てみて冷静になって「まずは今日だけでも、前向きに捉えてみよう」と思ってみてもらえると嬉しいです。

その「今日だけは」の積み重ねこそが、これからの世の中で、いちばん逆説的に価値を持つ時代がやってくるはずですから。

どんな些細な関係性においても、とっても大事な観点だと思っています。

いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。