最近、ピーター・ティールの評伝『無能より邪悪であれ ピーター・ティール シリコンバレーをつくった男 』という本を読みました。
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きっかけは先日のゲンロンカフェの配信。速水健朗さんがピーター・ティールについて熱く語っていらっしゃったので、この機会にぜひ読んでみたいなあと。
ピーター・ティールの出自みたいなものはある程度知っていても、そのピーター・ティールが率いる「パランティア」のことは、あまりよく知らなかった。
そのパランティアは今、AI関連銘柄としてめちゃくちゃ伸びていて、その背景にある想いみたいなものをちゃんと知っておきたいなあと思って読みました。
これを読んでいる多くの人もきっと、ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』を読んだことがあるぐらいじゃないでしょうか。
あの本の中で書かれてあった「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」 というピーター・ティールの有名な質問は、誰もが一度は必ず耳にしたことがあるはず。
で、結果的に今、この本を今読んでみて本当に良かったなあと思っています。
今日はこの本の内容のご紹介と、僕がこの本を読んで感じた感想を少しだけ。
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日本でのこの翻訳本の発売は2023年であり、具体的には「2021年までのピーター・ティール」について語られてあります。
つまり、トランプが前回の大統領選挙でバイデンに負けたところまでが、内容としては描かれてあります。
本書の中で、一番の学びは、やっぱりピーター・ティールとトランプの距離感です。
パランティアやピーター・ティール自身が、アメリカの国政や国防にどれぐらい食い込んでいるのか、それが本当によく分かる内容になっていました。
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この点、どうしても僕ら一般人は国防関連について、自分たちには関係がないことだと思いがち。
特に日本だと、テック業界というのは政治とは無関係だと思われていますよね。
堀江貴文さんも、最近でこそ政治家とよく絡んでいるのを見かけますが、そのたびに「自分のビジネスには、政治は全く関係ないと思っていた」と語るように、IT関連ってどうしてもtoCのサービスが中心だと思われがち。
実際、アメリカのビックテックなんかもそうですよね。Googleやmeta、Appleなど基本的にはtoCサービスが主です。
でも実は、堀江貴文さんもここに来て政治家と近づいているように、本来、軍事や国防が一番の主戦場なんだろうなあと。動くお金の金額も、尋常じゃないぐらいに大きい。
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じゃあなぜ、僕らはこのような政治とテクノロジーは関係がないものだと思わされていたのか。それが逆に気になりますよね。
この本を読んで、僕も初めて理解できたのですが、それはスティーブ・ジョブズの影響が大きいんだろうなあと。
少し本書から引用してみたいと思います。
ティールがペイパルでクーデターを起こしていた当時、シリコンバレーの神話は、とある一人の人物に集約されていた。スティーブ・ジョブズだ。
(中略)
ジョブズはリベラルではなかったが、彼の理想主義はシリコンバレーが昔ながらの保守的な研究拠点から、ニューエイジの熱意に満ちた場所に変革するきっかけとなった。ジョブズ以前の時代、テック企業にとって最高の功績とは軍関係の契約を取ることだった。
ジョブズ以降は、それが大衆を新たな世界に導くことへと変わっていった。アップルは(その後はどのテック企業もそうなっていくが)顧客に対し、自社製品は人々の生活を変え、ひいては世界を変えていくものだと、語るようになっていた。
ここを読んで、僕はなるほどなと思った。
そして自分たちは、完全にジョブズ以降世代。それゆえに、テック企業にとって最高の功績とは大衆を新たな世界に導くことだと思い込んでいたわけです。
でもむしろ、この認識のほうが異例だったんだと、この本を読んで気が付きました。
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で、ピーター・ティールは、スティーブ・ジョブズに憧れつつも、まったくその逆の認識を持っている人間でもある。
ジョブズのヒッピーからのカリフォルニアンイデオロギーとはまた異なる価値観で、自分自身もシリコンバレー側でありつつ、そのシリコンバレー的な価値観を一番に批判している人間でもある。
具体的には、リベラルに傾倒していくシリコンバレーを一番毛嫌いしているひとでもある。
これは、僕らにとってわかりやすいのは、イーロン・マスクがTwitterを買収したときみたいな感じを想像すると、きっとわかりやすいかと思います。
日本人は、リベラル的な価値観に染まりきっているから、イーロン・マスクの判断がトチ狂ったのかと思ったけれど、それぐらいアメリカの中ではリベラルの汚染が著しかったわけですし、彼らにとってはそれがとても気に食わなかったということなんだと思います。
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で、本書のタイトルにもある通り、ティール界隈第一の法則は「無能だと思われるぐらいなら、邪悪であれ」に尽きるそうです。
「いまの政治は法学者たちが支配している巨大な官僚機構にとらわれてしまった。大量の法律はさらに多くの規制を生み、これが社会のためのイノベーションとよりよい生活環境を阻害してしまっている」と。
政府と官庁は、リベラル的な観点を減らし、むしろイノベーションに関する専門知識を持つ優秀なエンジニアを政治の中枢に多く配属すべきだと考えているそう。
そのためなら手段も厭わないし、それが本書の中では「邪悪さ」として捉えられていました。
そして今、トランプ再選によって、再びそのような動きがまた着々と動き始めている。
どうしても、こういう書き方をしてしまうと陰謀論めいた話になってしまうけれど、実際、イーロン・マスクとピーター・ティールがアメリカを動かしているという見方は、そこまで間違った見方ではないんだろうなあと、本書を読んでみて僕が率直に感じたところです。
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だから本当に知るべきは「白人労働者階級が何を考えているか」とか「リベラルが何故負けたのか」よりも、彼らようなテクノリバタリアンたちが、今何を考えているのか、なのでしょうね。
ゲンロンカフェのイベントの中でも言及されていましたが、彼らは白人労働者階級が、ヤンキー的なもの、ミーム的なものに踊ることを、よくよく理解している。日々の憂さ晴らしができるようなもの、ギャンブル的な熱狂できるものに目がない。
だから、格闘技やマーベルのパロディ、そしてドージコインのようなものが、今まさに熱狂の最中にあるんだろうなあと思います。
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そして、今回の選挙を受けて、今のアメリカの雰囲気の報道を見続けている限り、しばらくは彼らの独壇場になりそうです。
トランプも、テクノリバタリアンが持ちかけるディールに対して、倫理や道徳観ではなく、よく語られるような「ビジネス重視」で決めていくのだろうなあと。
そして、そのビジネスが成立していく限り、今年から来年にかけては、彼らの思惑がアメリカの軍事や経済の中にも着々と反映されていくはず。
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で、きっとここまで読んだ方の大半が「とはいえ、自分には関係ない」と思っているはずなんです。
「遠い海の向こうで起きている、権力争いに過ぎないだろう」と。それはそう、間違いない。
でも、ここから、めちゃくちゃ大きなお金も動くわけですよね。軍事国防経済で、各国の対立も激しくなって結果として「ブロック経済」も進行する。
そうすると、インフレもドンドン加速することになります。
だから、仮想通貨も株式も不動産も、完全に今はブルマーケットで、この状況で一番割を食うのは、実は中間層や低所得層なわけです。
つまり、この話を読んで「私には関係ない」と思っているひとたちが実は、一番割りを食うはずなんです。
インフレ時代に、なぜ中間層・低所得者層が一番割りを食うのかは『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』という本で、エコノミストのエミン・ユルマズさんがとてもわかりやすく語られていました。
少しだけ引用しておきます。
アメリカと中国の対立で、世界はブロック経済に向かっています。これからは海外の安い製品を自由に輸入する時代ではなくなる。だから長期的なインフレ傾向は今後も続くと思います。
(中略)
これから中国製品にはもっと関税がかけられるでしょう。それを踏まえると、やはり世界的なインフレが今後も続く。インフレ率三パーセントぐらいが当たり前になるでしょう、そうなった世界で最も割を食うのは中間層・低所得層です。収入がインフレに追いつかない可能性があるからです。
結果、インフレで貧しくなった人たちが、政治に不満を表明することで、政治が大きく動く時代が来ると思っています。
このように、格差は広がる一方で、僕らにとっても今回の流れは、決して他人事ではないということだと思います。
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最後にまとめると、ピーター・ティール、イーロン・マスク、そしてサム・アルトマンなど、テクノリバタリアン考えていることや、その思想をある程度知っておかないと、これからの世の中の流れを見間違うことにつながってしまうんだろうなあと、本書を読んで強く思いました。
イメージだけで考えると、テック業界に風向きが向いてくれば、ジョブズが思い描いた理想みたいなものに進んでいくと思いがちだけれど、実はその正反対を進んでいる。
少なくとも今回のトランプ再選によって、明らかに潮目が変わったことは間違いなそうです。
また、日本も遅かれ早かれ、アメリカに追随していくことになる。政治とITの距離感が、良くも悪くもアメリカ的に変わってくるはずです。今の堀江貴文さんの動きなんかを見ていても、それは明らかですよね。
アメリカでのイーロン・マスクやピーター・ティールの成功を、彼らが再現しようとしないわけがないだろうなあと。
どうしても、「リベラルvs保守、白人労働者vsエリート」の構図で観てしまいますが、実はそれだけじゃないのが、今回の特殊性。
今起きているのはテクノリバタリアンの逆襲なんだということを肝に銘じて起きたいなと思って、今日のブログにも書いてみました。
どんな未来がやってくるのかは誰にもわからないけれども、常にこのあたりにも意識を向けていきたいなと思う今日このごろです。
いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとっても、今日のお話が何かしらの参考となっていたら幸いです。