私たちの“はたらく”を問いつづける対話型コミュニティWasei Salonのインタビュー企画「わたしの一歩」。この企画では、サロンメンバーが踏み出した一歩に触れながら、その人の人生や考えについてお話を伺っています。

今回のお相手は、建築目線で自社の社員が豊かに働くための空間づくりを行う、ファシリティマネージャーの田中友貴さんです。田中さんは、転職を機に昨年末から年始にかけて二ヶ月間の休暇をとり、そのうちの二週間はセネガルに滞在していたのだとか。そんな彼にとっての「働く」と「休む」はどういうものなのか。お話を伺いました。

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田中 友貴(たなか ゆうき)
1988年生まれ。岐阜県出身、東京都在住。高等専門学校の建築学科に通い、新卒でコクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社(現コクヨ株式会社)に入社。その後、ANAファシリティーズ株式会社やLINE株式会社、そして、2024年1月に株式会社マネーフォワードへと転職。ファシリティマネージャーとしてオフィス構築や施設の維持管理業務に携わる。



働く空間をつくる、田中さんの働き方

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ーーはじめに、田中さんのこれまでと現在の働き方からお伺いしてもいいですか?

専門的な用語になってしまいますが、ファシリティマネージャーとして働いています。事業会社のオフィスを作ったり、その枠を超えて「自分たちの会社ってどういう働き方がいいんだろう」といった議論をしたり。そんな社員が働く空間をつくる仕事をしています。


ーーこれまで、どのような空間づくりを?

前職の経験になりますが、出社する人もそうでない人もいるコロナ禍において「これからのオフィスは、どうあるべきなんだろう」と議論したタイミングがありました。その議論で出た「フォンブースの増設」というアイデアを空間に落とし込むと、ZOOMでの打ち合わせ時に利用者が一人でも会議室を専有してしまうという課題を解消することができたんです。社員からの評判も良かったですし、自分自身の仕事を説明するうえで割とわかりやすい事例なのかなと思っています。


ーー田中さんの働いている姿が頭に浮かびますね。そうした空間づくりに携わる仕事はいつ頃から?

高等専門学校の建築学科を卒業してすぐです。新卒で入った会社では、オフィスの内装工事を行う現場監督の仕事をしていました。そこから徐々にお客さんに工事を提案したり、その工事をすべて取りまとめたり、いわゆるプロジェクトマネージャーと呼ばれる仕事をするように。もともとは、デザイナーや設計士を志望していたのですが、早々に自分には向いていないと思いましたね。

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ーーどうしてでしょう?

デザインはセンスが問われる世界で、一握りの人だけが輝けるという印象を受けたのです。その一方で、全体をマネジメントする立場に移ってから、手を動かす仕事はデザイナーや設計士などの専門家に任せ、僕はその人達が専門性を発揮しやすいような土壌をつくることに楽しさを感じるようになりました。


ーープロジェクトマネージャーが田中さんの性格に合っていたんですね。でも、その職種も現在とは少し異なりますよね。そこからどういう経緯でファシリティマネージャーに?

当時はプロジェクトマネージャーとして、様々なお客さんのオフィスをつくる立場として働いていました。しかし、工事が完成して終わりでは、その後どのような課題が生じていくのかわからず、もどかしく感じていたんです。

だから、自分が働く事業会社で、働く空間と長期的に関われるような働き方がしたいと思うようになり、LINEに転職しました。そこではインハウスのファシリティマネージャーという役割で、自社オフィスの構築や移転、完成したオフィスの運用といった業務に五年以上携わることができたので、非常に充実して働くことができて良かったです。

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ーー充実した働き方に巡り会えた中で、転職を決めたのはなぜなのでしょうか?

前職に不満があったわけではなく、普段から求人情報を見るようにしていたら、どうしても挑戦したいポジションを発見してしまったんです。だから、今回の転職は突発的なものでした。そして、いつ退職や転職をするかの調整が走ったときに、「しっかりと休みたいな。一ヶ月では少ないな」と思ったので二ヶ月間の休暇をとりました。


セネガルで過ごした二週間

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ーー二ヶ月間の休暇のなかでセネガルに行かれたんですよね。それは一体なぜ。今までのお話から田中さんとセネガルが全く結びつきません(笑)

そうですよね。前職がそれなりに忙しかったので、しっかりと休み、自分の欲求を満たす土壌を作りたかったんです。そして、ここ一年間ほど、趣味でアフリカンダンスを習っているので、ダンスを学ぶこともやりたいことの一つでした。


ーーどうしてセネガルだったのでしょう。

僕が習っているダンスの種類が「サバール」というセネガルの伝統舞踊なのです。だから、セネガルに行くことを決めました。もともと運動すらしないタイプですが、知人に誘われたレッスンに参加するとハマってしまったのです。


ーーセネガルでは、どんな時間を過ごされたんですか?

サバールを教えてくれる先生が、現地に住んでいるドラマーのバケを紹介してくれました。セネガルの首都ダカールの中心地から車で一時間ほど離れた「Fadia」という街で、彼に案内してもらいながらダンスチームの練習を見せてもらったり、そのチームの個人レッスンを受けさせてもらったり、お世話になりました。ゴレ島という島など、観光地のガイドもバケがしてくれたのです。

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ーーどんな練習をされたのですか?

セネガルでの個人レッスンはビーチやシアターのエントランス、ダンサーの自宅など、さまざまな場所で行われました。現地では計画通りにいかないことが基本で、ダンスのレッスンも「よしYuki、今日は今からここでやるぞ」と声がかかったら突然始まります。

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チームでの練習は、夕方になればドラマーがゆるゆると集まり、使われていない廃校の倉庫に並んでいるドラムを出して叩き始めるんです。その後、ダンサーも集まって踊ります。ざらざらのコンクリートの地面のうえを裸足で踊ったのは新鮮でしたし、練習後の片付けを手伝ったり、コーラ味の飴を配っていたら、みんなと仲良くなれたのは嬉しかったです。

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ーーディープな体験をされていますね。

スラム街でしたし、カオスさを感じられる旅でした。滞在期間の前半は「もっとセネガルに居たい」という気持ちが強かったですが、後半になるとお腹を壊したことで日本の安全さが身に染みて「はやく、家の布団で寝たい」と少しだけ思っていました(笑)


ーー海外でお腹を壊すとつらそう......ただ、日本での日常との違いが大きいからこそ、感じることも多そうです。

ありきたりな表現ですが、その二週間のなかで価値観は揺さぶられました。セネガルには「テランガ」という、持っている人が持っていない人に与えることは当然だ、といったおもてなしの文化があります。その文化が背景にあるから、ドラマーのバケが住んでいる町の人たちはビッグファミリーのような関係性でした。

バケは色んな人の家にズカズカと入っていき、僕はわけもわからず付いていくしかない。そしたら、「このアジア人はだれなんだ?」と見られつつ、初対面の人でも「とりあえず、一緒にご飯を食べていくか」という流れになるんです。一つの大皿に入ったチェブジェンという魚の炊き込みご飯をみんなで食べたことはいい思い出になりました。

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ーー面白いですね。そういった経験をしたことがないです。

日本だと、いきなり入ってきた知らない人に対して、「ご飯中だから一緒に食ってく?」みたいなことは中々ないじゃないですか。でも、セネガルのその町では、それが普通なんですよね。おもてなしというよりかは、受け入れ力や気にしない力みたいなものを感じて、衝撃を受けました。


思わずやってしまうことを大事にしたい。

ーーセネガル、行ってよかったですか?

そうですね。間違いなくポジティブな体験ができましたし、セネガルに行ったことは新しい職場での話題提供にもなりました。また、転職先も前職と同じように成長している企業なので、この一ヶ月半も割と忙しくさせてもらっていて。休むことなく転職先に突入するのか、一回休むのかで結構違ったのかなと思います。

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ーーそもそも、田中さんはダンスのどういったところに惹かれたのでしょうか?

バランスが取れる感覚があるんですよね。仕事では、「この会社の人たちはどういう働き方ができたらいいのか。そのために、どのような職場が必要なのか」と数年単位のスパンで考えることが多く、抽象度の高い業務が中心です。

一方で、ダンスは自分の身体をどう動かすか、そのためにどこを鍛えたらいいのかとフィジカルの側面の強さを実感しています。ある時、どうしてもできない振り付けがあって、その時に「動きのベクトルを変えてみたら?」とアドバイスされたことがありました。そしたら、自分としてはやっていることをそんなに変えていないつもりだけど、自然とその振り付けができるようになったんです。そうしたフィジカルなダンスの面白さを感じて、ハマっていきました。

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ーーダンスと仕事を通じて「具体と抽象」や「頭と身体」のバランスが取れるような感覚なんですね。そのバランスが取れた状態というのは、どういう時に感じますか?

なんだろうな、仕事でミスをしても「実は僕、あの動きができるんだよな」と思えるんですよね。例えが卑近かもしれませんが、お笑いタレントの今田耕司さんがある番組で、キックボクシングを習っている理由として「どれだけ仕事で怒られても、その人に勝てるしなぁ」と語っていたのを見たことがあります。その例が近いかもしれません。


ーー筋トレや格闘技で聞いたことはありますが、ダンスの動きでは初めてです(笑)でも、仕事を充実させるためにダンスをしている、という位置づけでもなさそうですね。

仕事のために、という発想ではないです。個人的に、思わずやってしまうことを大事にしたくて。依存的にSNSを見てしまうのも、一つの大事なメッセージだったりするじゃないですか。だから、YouTubeでダンスの動画を思わず見てしまうことも大切な時間だと思っています。


ーー思わずやってしまうことに対し、否定的に語られることって多いと思います。どうして田中さんはその時間を大事にされているのですか?

習慣化や努力をすることができる人になりたくて、そうしたテクニックを学んでいた時期がありました。ただ、僕はそうしたことが結構できないんです。だから、「やらなきゃいけない」という発想とは別次元で、思わず手にとってしまうもの、見入ってしまうコンテンツを大事にして、そういう努力しない方向に舵を切ってきたのだと思います。

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それがギャンブルや借金を作るといった明らかに悪いものであれば別ですけど、そうでなければ、時には趣味や仕事につながる可能性もあります。僕にとってファシリティマネージャーの仕事も、そうした欲求や趣味の延長という感覚があるんです。「働くってそもそもなにか」「いい働き方とはなんだろう」といった哲学的に考えるのが好きなことが、仕事に厚みを持たせられるような職種なので。だからこそ、これからも休んだり、自分の欲求を詰め込むような時間は大事にしていきたいです。


「わたしの一歩」を踏み出すときに触れたいもの


ーー田中さんの働き方と休み方の差が面白くて、取材の時間があっという間でした。

本当ですか。ありがとうございます。

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ーー最後に二つ、質問させてください。田中さんはWasei Salonが招待制だった頃の初期メンバーで、最近またサロン内で活動されることが増えている印象があります。田中さんにとって、Wasei Salonとはどんな場ですか?

Wasei Salonに関しては、五年以上前からお世話になっています。当時、前職への転職を考えているタイミングだったので、すごくディープな相談をしていた印象がありますね。ただ、そこから自分のキャリアが定まるなかで自然と離れてしまっていました。

そんな中、戻ろうと思ったのがTwitterがXになるタイミングでした。今まで触れてきたTwitterというSNSがちょっと合わなくなってきたときに、Wasei Salonのタイムラインやブログを覗き、色んな人がいてすごく面白いなと思って。それでアクションを起こしてみようと、読書会に参加した流れです。なので、SNSの閲覧先が変わったみたいな感覚かもしれません。

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ーーその流れのなかで、こうして田中さんのお話を聞けてよかったです。また、もう一つの質問なのですが、田中さんが「わたしの一歩」を踏み出すとき、触れたいものはなんでしょう?

僕にとっては、紙とペンが欠かせません。文房具が好きで、これじゃないとダメみたいなノートとペンがあります。どれだけデジタル化が進んでも、日常的に自分の考えを紙に書き出して、見える化していますね。転職する時はとくに書く頻度があがっていました。モヤモヤを言語化できない場面では、自分の考えや悩みを見えるようにするのが一番いいんじゃないかなと思います。


ーー紙とペン。今日一日で田中さんの人となりを、とても感じられた気がしています。素敵なお話を聞かせていただいて、ありがとうございました。

自分のなかで言語化されていなかった部分を引き出してもらえて、ただただ楽しい時間でした。こちらこそ、ありがとうございました。

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編集後記

本文では書けませんでしたが、インタビューのなかで「夫婦ともに一人の時間を大事にしている」と話していた田中さん。慣れない子育てで自分の時間を確保することが難しいなかでも、月に二日ずつ、お互いが一人になれる時間を作っていると聞きました。そして、今回の長期休暇では「ありがたいことに奥さんの理解もあって、その二ヶ月は育児も離れさせてもらえました」とのこと。

大人になるほど自身の欲求を満たすことの難易度は上がると筆者は感じていますが、田中さんは妥協をせず、すごく上手に折り合いをつけながら休み、やりたいことを形にされている印象を受けました。そうした自分の時間と仕事と家庭のバランスを取りながら、すべてを大事にしているお話を聞き、かっこいい大人だと心から感じました。今一度、自分の欲求に従った休み方、働き方を考えてみよう。そう思わせていただいた取材でした。


文章:張本 舜奎
写真:菊村 夏水