私たちの“はたらく”を問い続ける対話型コミュニティWasei Salonのインタビュー企画「わたしの一歩」。この企画では、サロンメンバーが踏み出した一歩に触れながら、その人の人生や考えについてお話を伺っています。
今回のお相手は、東京でWEBマーケティング支援のお仕事をされている田中美聡さん(以下、みさとさん)。Wasei Salonでは日々感じたことや考えたことを丁寧にブログで言葉にし、読書会などのイベントも参加・企画されている方です。
そんなみさとさんはインタビューのなかで、「自分の内側に居場所を築くことが大切だと、対話を通して気づくことができた」と話していました。彼女にとって居場所とはなにか、そしてどのような一歩を積み重ねて居場所を築いたのか、お話を伺いました。
田中美聡(みさと)
鳥取県生まれ、東京都在住。新卒で地元の銀行に就職したのち、二社のアパレル会社で勤める。現在は企業向けにWEBマーケティング支援をおこなう会社で働いている。好きなことは読書と歴史。
一歩すすんで、二歩さがることの繰り返し
ーー先週の読書会ぶりですね。今日もよろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
ーーみさとさんは今年の4月にWasei Salonに入られたんですね。もっと長く活動されている印象がありました。
本当ですか。でも、他のメンバーにも「古参メンバーみたい」と何度か言われたことがあります。
ーーブログや読書会など、色んなところで見かけるからですかね。でも、意外とみさとさんのこれまでや普段の働き方は聞いたことがなかったので、今日を楽しみにしていました。さっそくですが、現在の働き方から伺ってもいいですか?
もちろんです。現在は、企業向けにWEBマーケティング支援を行っています。MA(マーケティングオートメーション)ツールの運用、インターネット広告やSNS運用の支援などが具体的な業務ですね。
ーー今の会社で働きはじめてどれくらいに?
およそ二年半です。それまでは色んな業界を転々としてきました。一社目では、地元である鳥取の銀行に就職したんです。就職活動が好きではなく、自分との相性をよく考えずに銀行員になったので「働くってなんだ。よくわからんぞ…」と初っ端から苦労してましたね。
ーー働くことがわからない?
銀行のなかでも花形と言われる部署へ異動になり、右も左も分からない自分にとっては厳しいと感じるノルマがありました。経験がなくてもドンドン行ってこいといった文化で、上司は年上の男性ばかり。知識も経験もないなか、何をどう相談していいかも分からず、誰にも頼ることができなくて、プレッシャーに耐えられなくなってしまったんです。
そして、銀行で三年ほど働いた後に「好きなことを仕事にしたい」とアパレルの会社に転職しました。責任を持って自分の言葉でお客さんにお薦めできる商品を扱う、ものづくりにこだわりのある会社でした。
ただ、女性ばかりの職場で、コミュニケーションのとり方が肌に合わなくて、その会社も一年半ほどで退職したんです。それからアパレル業界のなかで再度転職をして大阪で四年間働いてから、東京にある現在の会社に転職しました。
ーーアパレルの二社目はいかがでしたか?
この会社でも仕事自体は好きでした。お客さんや取引先の方、同僚など、関わる人たちの生活が少しでも彩りが豊かになったら、今日という一日が楽しかったと少しでも感じてもらえたら、すごく嬉しさを覚えるんです。
ただ、店長を任されていたとき、マネジメントがうまくできない現実とのあいだで葛藤があり、子供の頃から抱えていた家族の問題とも絡んできて、当時はキャリアを通じて最も苦しかった時期でした。なんで自分は一歩進んだら二歩下がるようなことを繰り返すんだろうって悩ましかったです。そして、今の会社に転職しましたが、本音を言えば色んなことをリセットしたかったのだと思います。
ーー今のみさとさんからは想像できないです。現在の会社に転職してからはいかがですか?
今は、一番苦しかった時期よりは余裕をもって働けています。自分で言うのも恐縮ですが、今年で33歳になりますし、溺れるように悩んでいた20代後半の頃と比べると少しずつ成熟してきているのかな。
対話との出会い
ーー20代の仕事において、うまくいかなかった理由は何だったのでしょう?
「こうあるべき、こうしなきゃ」の思想が強い性格で、自分や他者に対する寛容さが欠けていたんだと思います。例えば、後輩が雑な仕事をすると「なんでそんな適当に仕事をするの」とイライラしてしまっていました。
相手と向き合って対話を重ねていたら、彼や彼女の性格や得意に合わせた関わり方ができたと思います。しかし、当時はそうしたコミュニケーションは取れませんでした。
そうして仕事のことや家族のことなど、他者に対して心を開いて対話をすることができず、色々なものに蓋をしていたんですよね。だから、ストレスが蓄積していき、余計に何事もうまくいかなくなって、負の循環に陥っていました。正直、このときのことは今でも言葉でうまく説明するのが難しいくらい、色々なことが複雑に絡み合っていた感覚があります。
当時は、自分だけでは解決の糸口が見つからない感覚がありました。いよいよ話を聞くことに長けた専門家を頼ったほうがいいのではと考え、アパレルの二社目の頃からカウンセリングを受けはじめたんです。
ーーカウンセリングとはどのような?
認知行動療法に基づいたカウンセリングで、大阪にある民間のサービスです。東京に移るまで1年ほど、通っていました。
ーー状況に変化はありましたか?
カウンセラーさんとの対話を重ねたことで、自分ばかり責めなくていいと気づけたのは大きかったです。自分で自分を責める癖がついていたことに、当時の私は気づいていなかったので、初めはそう言われてもあまり信じられないくらいでした。でも、なにか問題が生じたときに自分だけが悪いことって少ないですし、客観的に他者や仕組みの影響を捉えられなくなってしまいます。
また、自己との対話の仕方を教えてもらえたことで、少しずつ変化がありました。細かく話すことは難しいのですが、知らないうちにずっと蓋をしてきた家族との問題の中身も覗いていったんです。そしたら、案外、平気だったことに驚きました。
そう思えるまでに時間はかかりましたし、気持ちの上でも紆余曲折はありましたが、最終的に「自分だけで背負いこんで苦しむ必要はなかったんだ」と思えたんですよね。自分が抱えてきたものをプラスに捉えるでも、ネガティブに捉えるでもなく、このままでいいんだって。
ーー背負っている荷物を把握し、整理することで軽やかになった。
そうだと思います。そして、軽やかに生きていけると思えたら、外側にではなく自分の内側に居場所を感じられるようになりました。
対話を重ねて、居場所を築く。
ーー自分の内側に居場所、ですか?
言葉にするのは難しいですね。誰かに依存するのではなくて、自分自身が拠り所となっているイメージです。それが外側にあると不健全なかたちで他者や社会にもたれてしまうけれど、内側にあると自分の足でまっすぐ立てるというか。
内側に居場所ができたと感じられるまでは、他者や社会にフラットに働きかけようとしても、自分の満たされていない欲求が前面に出ていて、価値観や考え方の押しつけになってしまっていました。それだと、矢印がぐるっと回って、自分に向いているだけ。
家族や同僚など他者に対して自分の意見や考えを伝えることは大事ですが、意見を通すことが目的になってしまうといい関係性は築けないと思うんです。
だから、自分の欲求と向き合い、健全に他者との関係を築いていくためにも自分の内側に居場所をつくり、自分の足で立っている必要があるのだと思います。
ーーそうした居場所を築くには、対話が必要になるのでしょうか?
もちろん持って生まれた特性や育った環境の影響で、自然と居場所を築ける人もいるはず。ただ、多くの人の場合は、年齢を重ねて、さまざまな経験をしていく過程で問い直されるタイミングがあるのだと思います。
そのときに自分と深く対話をしていないと、居場所が見つからなかったり、中途半端に感じてしまったり。だから、対話の深さと居場所に対する信頼度には、強い相関関係がある気がしているんです。
また、自己との対話は一人で行うものですが、新たな視点に気づかせてくれる他者の存在もとても大切。 もちろん、自分との対話を深めるためだけに他者がいるわけではないですが、他者との対話を重ねて関係性を構築していくなかで、逆説的に自分の居場所を確かに感じられることがあります。
ーー自己紹介のブログにて、Wasei Salonに入った理由に「対自分だけでなく「他者と」対話する準備が出来たな、と感じたからです」と書かれていたのが印象的でした。その話にも繋がってきそうですね。
そうですね。何年も前からWasei Salonの存在は知っていたのですが、入りたいという気持ちにはなれなかったんです。でも、自己との対話を深め、少しずつ余裕がでてきて、働くや暮らすについて本当に考えたかったのと、今なら不健全な形で誰かや何かにもたれかかることはないだろうと思えたから入会することを決めました。
ーー入ってみていかがですか?
働くことを真正面から考えてるかと言われたら、正直そうでもなくて。働き方よりも自分のあり方に向き合っている感覚があります。
みなさんの呟きやブログを読んだり、私もブログを書いたり、読書会などで対話をするなかで自分のありたい姿をどう描こうかみたいなところは考えているかもしれません。そして、そこから働き方に思考を降ろしている感覚があります。
あと、同じ空間にいることを考えるとやっぱり、みなさんが話していることや考えてることをきっちりと受け取っていきたいと思っていますね。
ーー最後に、みさとさんが「わたしの一歩」を踏み出すときに触れたいものをお聞きしたいです。
これまでの話と重複してしまいますが、自己との対話です。自分の歩む道は、自分のなかから生まれてくると実感しているので。
ーーあえて直球で伺ってみたいのですが、みさとさんにとって対話とはなんですか?
それぞれの感情や思考を受けとめることで、継続的な関係性をはぐくむもの、ですかね。対話はお互いの存在を確かに感じられる機会だと思っています。自分自身に対しても言えることかもしれません。
これからは、そんな対話を通じて、自分のなかに居場所は作れるということをみんなと一緒にやってみたいんです。まだ、みんなというのが誰か明確ではないですけど、そういうことに価値を感じていただける人たちと、これから色んな一歩を踏み出していければと思っています。
ーー居場所は外側にあるものだと思っていたので、今日のお話とても面白かったです。今日はありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。また読書会でよろしくお願いします。
編集後記
人それぞれ、「わたしの一歩」は違うことを感じられる時間でした。
インタビューのなかで「何かをきっかけに人生が大きく変化したみたいな、わかりやすいビフォーアフターがないんですよね」と話されており、みさとさんが転職を大きな一歩だと捉えていないことに驚きました。
地元から離れた慣れない土地で、これまでと異なる業界に飛び込むのは勇気が必要だったはず。しかし、そんな転職という外部の環境が大きく変わった一歩でも、輪郭がハッキリとしたきっかけとして語られることはありませんでした。
対話を通して、小さく起こる自身の変化に気づけているからこその捉え方なのかもしれません。そうして今回、転職ではなく「自分の内側に居場所が築けたこと」が、みさとさんにとっての「わたしの一歩」になったのだと思います。
数多ある一歩から、どれを「わたしの一歩」だと捉えるのかは人それぞれ。だからこそ、自分にとって大事な一歩を大切にしていきたい。そう思わせてくれる素敵なお話をありがとうございました。
執筆:張本 舜奎
写真:菊村 夏水
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