人は誰しもみな、踏み出した一歩があり、それは他者からみたその歩幅の大きさに関わらず、当事者はさまざまな感情を抱いていることと思います。
Wasei Salonでは、そんなメンバーさんの「わたしの一歩」に寄り添い、応援し、その軌跡を残していきたい。
今回は、鹿児島県錦江町でNPOの代表として奮闘されている馬場みなみさんに取材させていただき、これまでの葛藤や、生きていくうえで大切にされていることを語っていただきました。
馬場みなみ
兵庫県出身、鹿児島県在住。大学卒業後に鹿児島県錦江町の地域おこし協力隊として活動し、卒業後は仲間たちとNPO法人たがやすを設立。ゲストハウススタッフをしながら、図書館運営、農福連携、認知症フレンドリーに携わる。海と山を往復して過ごせることが日々の幸せ。
自分の感性を信じて地域おこし協力隊の道へ
関西学院大学を卒業後、鹿児島県錦江町の地域おこし協力隊として3年間活動していました。協力隊卒業後は、錦江町内外の仲間と一緒に様々な活動を行うNPO法人「たがやす」を設立し、代表をしています。
ーーおお、関学にいらっしゃったのですね。実は僕も関学出身でした。2017年卒です。
そうなんですね。私は2019年卒なので、もしかしたらキャンパスですれ違っていたかもしれませんね。
ーー確かに。本日初めてお話しさせていただきますが、もう既に親近感が沸いています。(笑)関学卒業後、新卒で地域おこし協力隊として活動するキャリアはかなり稀な印象を受けます。
確かにそうかもしれません。わたしの同級生のなかでも、そのような道に進んでいる人は少なかったと思います。
ーーということは、地域おこし協力隊になりたい気持ちはとても強かったのですか?
実はそんなことなくて。地域に関わる仕事には興味があったのですが、周りでなっている人が誰もいなかったこともあり、地域おこし協力隊になることはそこまで考えていませんでした。なので、地域おこし協力隊になろうと決めたときは、不安な気持ちも大きかったです。
ーーとても意外です。不安のなか、何が決断の決め手になったのでしょうか?
当時、就職活動として一般企業の面接もいくつか受けていましたが、どれもしっくり来なかったんですよね。スーツを着て、みんなと同じようにエントリーシートを書くこともできませんでした。自分の違和感に正直に、心から納得してやりたいと思えることじゃないとできないのだなと思って。地方で暮らしながら地域づくりに関わる仕事があることはとてもしっくりきていました。
また、地域おこし協力隊は新卒ではできないんじゃないかという考えが、わたしの中にはあって。ですが、錦江町の職員の方の方が「新卒でも挑戦することは可能だから、ぜひ協力隊をやってほしい」と熱心に誘ってくださり、できるんだったらやってみようと決心しました。
ーーそうなのですね。馬場さんは、ご自身の感覚にとても素直な方なんだなと感じました。
そうかもしれないですね。「違和感を感じたら見過ごさないようにする」というのは、就活で再確認できたのかもしれません。
ーー今振り返ってみて、その決断をどう捉えられていますか?
そうですね、、、わたしは会社勤めの経験が一度もないので、本当にこのキャリアで大丈夫なのかなと不安に感じるときも正直あります。でも、新卒から今まで色々なことに挑戦させてもらえて。この道を選んでよかったなという気持ちはとても強いですね。
一歩一歩自分ができることを丁寧に
地域おこし協力隊では、イベントを企画することが多かったのですが、そのような業務に取り組むのは初めてだったので、毎日が挑戦の連続でした。企画書の提出の仕方から何もわからず、「これでいいのかな」と正直ビクビクしていました(笑)
ーー最初は苦労されたのですね。そこから何か変化はありましたか?
企画書において「何が正解なのか」や出来栄えを気にしてしまうとなかなか進めないですし、不安な気持ちも大きくなるので、「完璧を求めるのではなく、6割程度の完成度でもいいから結果を気にせずやってみよう」という気持ちで取り組み始めました。そこからは、少しずつコツを掴めたと思います。
企画を通して、何をするにしてもまずは一歩一歩自分ができることを丁寧に取り組んでいく感覚が身につきましたし、今も大切にしています。
ーー一歩一歩丁寧に取り組んでいくこと、とても大切ですよね。馬場さんが強い想いを持って協力隊の活動に取り組んでいたことが伝わってきたのですが、特に思い出に残っているイベントはありますか?
食に関する雑誌の編集者を講師としてお呼びして、さまざまな業種の方に参加していただいた対話イベントですね。講師の方の仕事に対する想いや葛藤を知れたこともうれしかったですし、参加者のみなさんもそのお話を自分ごととして捉えている様子が伝わり、場をみんなで作ることができている感覚がありました。
言葉だけが、自分の表現方法ではない。当たり前にとらわれず、自分らしいあり方で周りを巻き込んでいく。
見るからに代表じゃない感があるわたしが、代表をやっているのも不思議な感覚なんですけどね(笑)
地域おこし協力隊二年目の時に、錦江町の方から「NPOを立ち上げて、代表になってほしい」というお誘いをいただきました。わたしが代表になると、立ち上げ、運営に必要な資金もいくらか補助されますし、卒業した後何をしていくか考えていたタイミングだったので代表になることを決めました。
ーー正直、リーダーになることに葛藤や不安はありませんでしたか?
めちゃめちゃありました。今も代表として、自分はうまくやれているのか不安な気持ちになることがあります。
ーーそんななか、代表としてのモチベーションはどんなところにありますか?
一般的なリーダー像にとらわれず、「こんな人でも代表であれる世の中なのもいいよね」と思う部分が正直あって。それが現時点ではわたしが代表である意味なのかなと思っています。
代表着任のお誘いをいただいて、やると決めてから1年間、リーダーとしてどうあればいいのかずっと考えていました。でも考えれば考えるほど、既存のリーダー像にとらわれ、「自分はそうなれない」と自己嫌悪に陥りそうでした。特にわたしは、自分の考えや想いを言語化して発信することが得意ではないので、当時はみんなが求める理想のリーダーにはなれないかもしれないと感じました。
そして考えた結果、当たり前にとらわれず、自分らしいリーダーのあり方をつくっていこうと思って、その考え方が今は腑に落ちています。
Wasei Salonに入会したのは代表着任のお話をいただく前だったのですが、実はサロンのプロフィールにも「生き方で自分を表現していきたい」と書いていたんですよね。わたしにとってそのスタンスはとても大切なんだなと、納得させられる出来事でした。
意思があるだけで前に進めている
Wasei Salonには、サロン内で活動するごとに貯まっていくポイントがあって、そのポイントを使ってメンバーのスキルを交換できる仕組みがあるんですけど、メンバーのはっちーさんの、「あなたの武器を一緒に見つけます」が印象的でした。
わたしはそれに申し込み、当時モヤモヤしていたことをはっちーさんに聞いてもらったのですが、「意思があるだけで前に進めているよ」という言葉を貰い、それがとても嬉しかったです。
ーーとても素敵な言葉を貰ったのですね。
自分が前に進めているか迷ったときに大切にしたいなと思いましたし、同じ悩みを抱えている人にもよく伝えていました。自分にとっておまじないのような言葉です。
非日常を通してつかんだ、確かな手応え
まだ言語化しきれていないのですが、とても素敵な時間を過ごすことができました。サロンメンバーの皆さんと一緒に普段と変わらない日常を過ごしましたが、それが日常ではない感覚がして嬉しかったです。
また「たがやす」のメンバーと対話していただく時間もとても貴重だったと思います。手応えのような確信のようなものを感じることができました。
ーー確信というと?
具体的にはどんな手応えかまだわからないのですが、「たがやす」のメンバーとWasei Salonのメンバーが対話している光景が、今も目に焼き付いているんですよね。そこまで印象に残っているということは、きっと何かあるんだろうなと思って大切に自分の中にとどめています。
挑戦を支える上で、大切なこと
自分が挑戦してきたことを振り返ったときに、「やってみた後の自分の変化に、今の自分がわくわくできるかどうか」を大切にしながら、意思決定していたなと感じます。挑戦し、結果がどうなるかももちろん気になりますが、私の場合、それ以上に自分がその過程を楽しめるかどうかは大きかったです。
そして、やってみた後に実際に自分がどう感じたかもちゃんと振り返っていきたいなと思っています。
ーー大切ですよね。他には何かありますか?
挑戦したいことができたときに、それを共有できる人や居場所があると、後押しになると思います。たとえ挑戦してうまくいかなかったとしても、それも含めて共有できる場所があるなら安心できますし、それがあったからこそ今まで挑戦できたのかもしれないなと感じます。
ーーありがとうございました。今後も馬場さんのご活躍を応援しております。
編集後記
馬場さんはご自身に正直で、飾らずありのままで日々を過ごされている方だと感じました。地域おこし協力隊や「たがやす」でたくさんの人から信頼されているのは、そのようなお人柄も影響しているのだと思います。
また、理想のリーダー像を語っていただいたときに、言葉の節々に力を感じました。たとえ言語化が得意でなかったとしても、馬場さんのなかでブレない軸があるから、周りも馬場さんについていくのでしょう。馬場さんの記事を読み、読者のみなさんが一歩を踏み出す勇気に繋がることを願ってやみません。
執筆:川本 海景 https://twitter.com/mikage1006
写真:長田 涼 https://www.instagram.com/nagata.ryo/
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