今朝、Voicyで配信したこちらの対話会。


出演してくださったのは、IKEUCHI ORGANIC社長の阿部さん、同じくIKEUCHI ORGANICの益田さん、そして建築設計士の黒木さんです。

テーマは、みんなの「ブランド」になるためには?という内容で、4人で45分程度の対話をしてみました。

IKEUCHI ORGANICさんといえば、普段から「ファンベース」を体現する企業の代表事例として広く知られているような企業です。

そして建築設計士の黒木さんもまた、古民家再生や地域づくりに携わる中で、そこに住む人々が「これはみんなの地域だ」「自分たちが運営の当事者なんだ」という意識を持てるように促していく、その手腕が本当に見事な方。

「この3人と話すなら、このテーマしかない!」そのように確信して、答えも決まっていないまま、見切り発車で始めた対話会だったのですが、配信の後半、とても深いところまで話が及んでいきました。

特に、「どうすれば、関わる全員が当事者意識を持てるのか?」という問いをめぐる部分は、個人的にもまさに目からウロコが落ちるような内容で、今日はその内容を改めて深堀りをしながら、このブログの中でも考えてみたいと思います。

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この点、一般的にはブランドやプロジェクトを成功させたいとき、緻密な設計図を用意したり、わかりやすい目標を掲げたりしがちです。

それは一見、正攻法として正しいアプローチのように思えて、逆に人々の当事者意識を薄れさせてしまうのではないか、という視点が前半で語られていました。

なぜなら、それはタスクをこなすだけの「仕事」になってしまうからです。

それだと、まるで業務のようになってしまって、やる気や自主性も削がれてしまい、そこに自発的な熱量は生まれてこない。

むしろ、みんなのブランドになるためには、ゴール設定はあえて“ふんわり”でいいという話が語られていて、これも変な話に聞こえるかもしれないけれど、本当にそのとおりだなあと思いました。

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何か具体的な数値目標や完成形をガチガチに決め込むのではなく、あえて曖昧な未来像だけを示してみる。

そうすることで、お客様や町の人々など、参加者一人ひとりが「じゃあ、自分なら何ができるだろう?」と考える余地、つまり「関わりしろ」が生まれてきて、そこでそれぞれに自分ができそうなスタンスで関わり始めてくれるようになるんだ、と。

あとは、そこから生まれてきた偶発的な動きをしっかりと受け止めていくこと。

この視点は、オンラインコミュニティ運営においても全く同じだなと思っています。

詳細な設計図よりも「こんな世界観をつくりたい!」という旗を掲げる程度でとどめておいたほうが、偶発的で面白い動きが生まれてくるなあと思っています。

言うなれば、ガチガチにルールを固めずに、憲法の前文や憲章ぐらいの方針にとどめておくこと。

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とはいえ、これにも、もちろんジレンマは存在していて。

そうすると、どんなものが生まれてくるかもわからないし、もともと存在するブランドの「らしさ」を逸脱するものが、立ちあらわれてしまう可能性もある。

というか、それを避けたいがゆえに、従来的なブランドというのは、明確にトップダウン形式でガチガチに進めたがるわけですよね。

そこには明確にトレードオフの関係性があるように感じられるはずなのです。

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となると、次の問いは、ゴールを“ふんわり”とさせて「関わりしろ」を保ちながらも、どうやってブランドの方向性も同時に保つのか、が重要になってくる。

で、その答えは、具体的なルールなどやガイドライン縛ることではなく、その共同体だけの「らしさ」をいかに全員に共有するかにあることは間違いない。

じゃあ、そのためには一体どうすればいいのか。

そして昨日の配信の中での一番のハイライトも、まさにこのくだりに話題が及んだときだったなと思います。

ここで黒木さんが語ってくれたお話は「自分は、最後の設計士じゃない」という話でした。

黒木さんが手掛ける古民家再生は、150年以上そこにあった建物の本来の魅力を、みんなで「磨き出す」作業なのだと。

そうすることで、次の世代がまた手を加えやすい形で、未来にバトンを渡していくことができる。

これは本当に、ものすごくハッとさせられる話で、そう考えるときっと、「らしさ」の正体とは「自分たちは何を受け取ってきて、そして、これから一体何を贈りたいのか」という問いを明確にする作業そのものなのだろうなあと。

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これは、先日ご紹介した、松岡正剛さんと田中優子さんの対談本の中に出てくる「老舗」という言葉の話にも見事につながると思います。


「老舗」の語源は、古いものを守るだけでなく、前のものに「仕似せ(しにせ)る」ことで、似せながら新しくしていく営みにあるといいます。

つまり、既に続いている大きな流れに付託することができるように、場を整えながら、続けていくことが大事だということですよね。

日本一、「老舗」が多い町である京都生まれ京都育ちのおふたりと、この話になったのは、決して偶然ではないんだろうなあと思いますし、まさに現代を生きる僕らに足りない視点もきっとここにあるはずだと僕は確信しました。

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で、このらしさの正体さえ明確になってしまえば、それこそがルールやガイドラインに代わる共通の「ものさし」にもなってくれる。

しかも、その「ものさし」は統一された基準である必要はなく、ひとりひとりの認識や価値観が異なっていても一向に構わなくて、むしろ異なっていたほうが、偶発性や新しい可能性も生まれやすい。

そこで本当に大事なことは、これまでに続いてきたものを自覚し、これから継いでいきたいものを、携わる一人ひとりが強く自覚し体感をすること。

それぞれに問い続けて、未来に向かって力を加えながら大玉を転がしていく。そんな「大玉転がし」のような状態が生まれてくるということなんですよね。

この大玉転がしの例は、以前にも、何度か書いたことがあります。



過去から送られてきているはずの大玉を受け取り、自分たちは中継者の感覚を持ちながら、同時に主体的にそれを自分のところで停滞さてしまうわけでもない。

未来の次の世代に贈っていこうと思えるときに、全員が同じ方向を向いて、なおかつブランドの価値を毀損することなく、受け継いでいくことができるはずです。

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つまり、この大玉転がし的な感覚としての「ものさし」さえ共有できていれば、各自がそれぞれの判断で動いたとしても、決して破綻しなくなる。

なぜなら、誰もが自分は壮大なリレーの中の、いち「中継者」でしかないと理解しているからです。

そうすると、自己利益の最大化に走ることもない。所有ではなく、流れを生み出す感じで、それこそがいちばん心地よいことであるということも、参加する誰もが次第に理解できるようになるはずだから、です。

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では、なぜ僕たち人間は、その「大玉」を誰に頼まれるでもなく、中継者として転がしたくなってしまうのか。

ここも非常に重要な視点だと思っています。

それはきっと、その大きな流れに身を委ねているときは、すでに計り知れない何かを「受け取ってしまっている」と気づいていくからなのでしょうね。

配信の中でも言いましたが、IKEUCHI ORGANICは一昨年創業70周年を迎え、これからも未来へと続いていくだろうと間違いなく思える。自分が死んだ後も、必ずブランドとして続いている確信が僕にはある。

また、古民家や古くからの町並みなんかも、僕たちが生まれるずっと前から続くものがあるということを理解できて、それに気づけば受け取ってしまったものを、今度は未来へ受け継いでいきたいと、素直に願うはずなんです。

この感覚こそが、最近僕がずっと主張し続けている「宿命性」の話にもつながっていく。

しかもそれは、誰かに強制されたものではなく、自分から進んで引き受ける主体的な宿命性なんですよね。決して、選択の自由の否定や、身分の固定化ではない。

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で、今日のこの話を振り返ると、モヤっとさせられるプロジェクトの原因もまた明確になるなあと思います。

それは、語られる物語がそんな「大いなる川」に一切繋がっておらず、「自分がやりたい」というエゴだけという「小さな物語」でしかないから、なんだかモヤッとするわけです。

そんなスピンオフ的な物語には、僕たちは興味を持てないのです、きっと。

そうじゃなくて、僕たちが本当に心を動かされる取り組みというのは、自分のやりたいことと、歴史や伝統など、そんな「大いなる川」との交差点を見つけられたとき。

「自分たちはこんなにも、この場所から(このブランドから)豊かなものをすでに受け取ってしまっている。だから、それを次の世代へ贈っていきたい。その一翼を担いたい」と素直に思えるかどうか。

そんなふうに、ひとりひとりが主体的な宿命性を引き受けたときに、自発的な力が結集されていくということなのでしょうね。

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で、このときに本当に必要なのは、強いリーダーシップや明確なビジョン、そこから生まれる具体的な設計図なんかではなく、黒木さんのように、言葉を預かるものとしての「預言者」のような存在なのかもしれません。

旗を振るその人自身も、大いなる何かから「言葉」を預かっているだけで、その流れを整えているだけというひとであるほうがいい。

そうやって整えることで、みんなが大きな川の流れをハッキリと意識し、それぞれに自分たちのルーツを実感することもできて、それに身を委ねるようにそれぞれが持てる力を発揮することができる。

そういった形で、場を耕していくような存在がいることが大切なのでしょうね。

そんなときに初めて、個人の力は何倍にも膨れ上がり、誰か一人のものではないパトリオティズム的なスタンスにおいて、真の意味で「みんなのブランド」が生まれていく。

そんなことを強く強く実感した対話会でした。

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今日の話は、対話会の音声を聴いてもらうと、より一層その熱量や空気感が伝わるかと思います。

ぜひ、合わせて実際の対話会の音声も聴いてみてください。


いつもこのブログを読んでくださっているみなさんにとって、何かしらの参考となれば幸いです。