『冬のなんかさ、春のなんかね』の話。

前回から二週あいだが空いたので、ここまでを簡単に振り返っておくと、

小説家の土田文菜(杉咲花)は、ゆきお(成田凌)と付き合っている。出会いはコインランドリーで、二人は出会ったその日のうちに付き合うことになった。

文菜とゆきおは付き合って1年ほどになるが、文菜はその間浮気をしている。相手は小説家の山田(内堀太郎)だ。山田にも恋人がいて、二人は互いに交際相手がいることを承知の上でそういう間柄になっている。

文菜は、今の自分を「人とまっすぐ向き合えていない」状態だと捉えている。大学時代からの友人のエンちゃん(野内まる)が、自身がアロマンティックアセクシャルであることから起こる恋人との摩擦について真剣に考えている姿を見ると、自分が情けなくなる。

文菜は、「好きにならない人を好きになる」と決めて、ゆきおと付き合っている。ゆきおは優しい。しかし、ゆきおと別れてもそんなに悲しくないだろうな、と思っている。

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文菜にも、「人とまっすぐ向き合えている」ときはあった。高校時代に付き合っていた人とは、高校卒業後に遠距離恋愛となることが確定し、それを理由に相手から別れを告げられたが、文菜は別れたくなかった。

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大学時代には、自分とは異なる恋愛観を持っている友人に介入することもあった。その友人は既婚者と不倫をしていたのだが、「今が楽しければいい」という友人に対して、「それじゃ先がないじゃん」と苦言を呈してもいた。この頃の文菜は友人の現況を自分事として捉え、自分の考えを「まっすぐ」に伝えていた。

この時期、文菜は自分に想いを寄せるツクダ(細田佳央太)と付き合うことになる。文菜は、はじめはツクダを恋愛対象としては見ていなかったが、ツクダから告白されて、返事をするあいだに何回かデートを重ねるうちに、ツクダのことを好きになり、交際することとなった。しかし、付き合ってから2ヶ月ほどで、ツクダから別れを切り出される。理由は「自分のことをもっと好きになってほしかった」からだそうだが、文菜は「好きだったのになぁ」と内心では思っている。

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高校時代の恋人からは、遠距離を理由に別れを告げられた。近くにいる相手からは「好きになってほしかった」と言われて別れを告げられた。遠距離だろうと近距離だろうと、心の距離は遠いまま。文菜はツクダと別れてから意気消沈していた。

そんな文菜の前に現れたのが、小説家の小林二胡(柳俊太郎)だ。以前から小説を読むのが好きだった文菜は小林に強く惹かれる。エンちゃんの計らいにより距離を縮めた二人は付き合うことになる。現在から遡ること6年前のクリスマスの話だ。

しかし、文菜と小林は1年ちょっと付き合ったのちに別れることになる。この間、文菜は小説家としてデビューしており、とある文学賞で最優秀賞を受賞してもいた。別れを切り出したのは小林で、文菜が理由を聞くと「わかんない」と言う。それでは納得できない文菜は二人の関係を継続しようとあれこれ意見を言うが、小林の意志は固い。挙句、小林は「文菜が邪魔で」と言い、文菜に嫌われるために文菜の友人と寝たと言う。理解不能な小林の行動に呆れた文菜は、小林の前から立ち去り、二人の関係は終わりを迎える。

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そして、今回。舞台は現在から2年前の2024年2月。
文菜は、音楽家の田端亮介(松島聡)と出会い、関係を深めていた。

この頃の文菜は人を好きになることにほとほと疲れていた。だから、遊んでそうな、あんまり本気で自分を好きにならなさそうな、自分もそこまで好きにならないであろう亮介にDMし、繋がりを求めた。

このときの文菜は、「人と向き合うことはしたくないが、誰かと繋がっていたい」という心持ちだったのだろうと思う。文菜のこれまでの恋愛遍歴からしてみると、こういった心持になるのも無理ないだろう。文菜は、人を好きになってもろくなことがない、くらいに思っていたはずだ。

好きになったり、想いを伝えてきたのはあっちからだったのに、いつしか相手の気持ちを自分が追い抜いてしまう。そして、その気持ちが相手に伝わらなかったり、重りになってしまったりして、別れを告げられる。相手は別れを切り出すまでに気持ちを整理できているだろうが、別れを切り出される側の自分はその度に喪失感に苛まれる。

もう、人を好きになったり、好きになった人を失ったりしたくない。だから、自分があまり好きにならなさそうな、遊んでいそうな亮介との繋がりを求めたのだ。

しかし、この亮介という男の近くにいて、彼を好きにならないのは到底無理。彼の近くにいてしまうと、彼を好きになるのは不可避なのだ。

亮介は、そのときに欲しいことばをくれる。文菜が「キスしてほしい」と言ったときも、二人の間にそういった関係を持ち込みたくない亮介は、やんわりとその言葉を受け流したあと、気まずそうにしている文菜に対して


今の言葉はちゃんと忘れるから、気まずくなんてならないから


と言うし、



文菜が二人の関係にやきもきして、長文のメールを送ってしまったあとに顔を合わせたときも、文菜がそのことを気にしている素振りを見せると、


それ書かしたの、おれだから



と、言って「ごめんね」と「気にしないで」を伝えることができる。

これは不可避。

そんな亮介は、文菜に対して「自分のことを好きにならなさそうなところが魅力」だと思っていた。亮介は、色々な人と寝てはいるが、それは相手が求めてくるからであって、自分にはそんな気持ちはない。亮介は、そうやって相手の要求に答え続ける自分を恥じてもいたのだろう。だからこそ、自分にそういったことを求めてこない文菜とは正直な気持ちで向き合えると思っていた。

しかし、その関係を継続させることは無理だった。文菜は他の女性と同様に、亮介のことを好きになり、体の関係を欲してしまった。亮介は、そんな文菜に対して他の女性と同様の接し方をすることを拒んだ。誰にも言っていない心の内を文菜に吐露することによって、二人の関係をしっかりと断絶させた。

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そして現在。文菜は山田とホテルにいる。

文菜は山田に対して「好きになってしまったことで、相手に会えなくなるのはいやなんだ」などと人生相談をしている。亮介にしても、これまで付き合った恋人たちにしても、文菜が付き合ったのは人として好きな人ばかりだ。そんな人たちと恋愛関係を持ってしまうと、その関係が崩れたあとに会えなくなってしまう。

そうならないためには、「好きな相手と恋愛関係にならない」か「恋愛関係になっても、好きにならない」のどちらかの手段しかない。

文菜の人間関係は、そんな関係性で成り立っている。

と、そのとき文菜と山田に同時に連絡が入る。

この報せが、文菜の人生観に多大な影響を及ぼすだろうと予感している。